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ミュンヒハウゼン男爵の幻覚のROYのレビュー・感想・評価

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メリエスのイリュージョン

酒に酔った男爵は摩訶不思議な夢を見る。古代から地獄を思わせる場所まで舞台はめくるめく移り変わり、ドラゴンや蜘蛛女など様々な怪物に遭遇する。

映画は、ひとをあざむく。この世にありえないことを真実と思わせるために、現実を歪めることもいとわない。観客であるわたしたちも、未知の映像をもとめ、信じがたいものを進んで受け入れ、現実では許されない夢や幻想を生きようとする。

■NOTES
ミュンヒハウゼン男爵は夢のなかでさまざまな場所を訪れ、次から次へと奇怪な生き物におそわれる。メリエスが得意とした波瀾万丈のおとぎ話。だが、物語そのものは幻想的な変身のための口実にすぎない。この世界では、登場人物と舞台装置がいっぺんに姿を変える。しかめつらのお月さまが象に変わり、天国が地獄に変わる。単純なカットインによって時間と場所が置き換わるのは、映画の草創期によく使われたテクニックである。『ミュンヒハウゼン男爵の幻覚』はモンタージュのお手本といってもよい作品だが、メリエスはさらに舞台芸術でもちいられる仕掛けを作中にとりいれた。ウディ・アレンが撮った『カイロの紫のバラ』の主人公と同じく、ミュンヒハウゼン男爵は寝ているあいだに「スクリーン」を通りぬけ、フィクションの世界に足を踏みいれるのだ。このとき、夢と現実の区別はあいまいになり、物語は映画そのもののメタファーとなる。映画は、わたしたちを「催眠術」にかける。別の言い方をすれば、映画の観客は眼をあけたまま眠るのである。

↑「短編オムニバス ― イリュージョン」『Le Studio』https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/studio/141101/

■COMMENTS
カレル・ゼマンの『ほら男爵の冒険』を見る前に
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