Myke

あんのMykeのネタバレレビュー・内容・結末

あん(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

樹木希林さんにとって最後の主演作「あん」。

完成試写会で樹木希林さんが、

「この歳になるまで、こんなに過酷な、
こんなに悲しい、寂しい、虚しい日々を
送らざるを得なかった状況があるということを
知らなかった自分をこの映画を通して
恥じました。」と述べられていた。

まさしく“無知の知”である。

ハンセン病を知らない人、
知ってるけど詳しくは知らない人は
世の中に沢山居ると思うし(私もその1人である)
「知らなかった」ということをあえて言われた
樹木希林さんのささやかな愛を感じた。

:

「私達は
この世を見る為に、聞く為に、生まれてきた。
この世は、それだけを望んでいた。
だとすれば、何かになれなくても、
私達には生きる意味があるのよ。」

空気を吸って、さくらを愛でて、
散った後の木漏れ日を浴びて、
お天道様に感謝して、
月の表情を感じ取って。
皆と当たり前に生きれること。

あぁ、この世界はなんて美しかったんだろう。
生きてるってなんて素晴らしい事なんだろう。

おそらく、
ハンセン病にかかることは不幸なことじゃない。

自分と違う見た目の人を認める勇気がない、
自分が一番で他人に対して思いやりをもてない、

そんな醜い心を持って生きてる人間のほうが

よっぽど不幸だ。

バイトしたいと思ったきっかけの一つに、
店長・千太郎さんの哀しい目が気になって
と言っていたが、

徳江さんは辛い思いをして生きてきたからこそ、
人一倍、人の心に敏感で、
人一倍、生きる意味を探り、
自分らしく前を向いて生きていったのだと思う。

最高の人生だったに違いない。


そして今回のテーマとも言える
千太郎さんのセリフ。

「世間よりもっと酷いのは俺だ。」

誰しも人間の中にあるその酷い「心」が、
差別や偏見の原因である
“根源の悪”であることを諭してくれた気がする。

私も千太郎さんの立場になったら、
店を守るという口実で
自分を守ってしまうかもしれない。

この映画に出会ったからそこ、
自分のそういう醜い心にも気づいて
自分が嫌になったが、

小豆一粒一粒の生き様や気持ちを考えて
あんをつくっていた徳江さんのように、

他者を理解する勇気を持って
自分のその醜い心を変えながら生きたい。

そういう、一人一人の心の変革が
差別撤廃へ繋がる近道であると思う。


あぁ、徳井さん手作りのどら春のどら焼き、
食べたい〜!!


◯印象に残ったお芝居

映画序盤では、オシャレをして物おじしない
愛嬌のある徳江さん(樹木希林)を観て
「こういうおばあさんいるいる。」
という感じで観ていたが、

お店で最後の「では。」という滲み出る儚さと、
明るいのだけど、物事を悟った表情が
とても悲しくてつらくて素晴らしかった。

さらに、病院で徳江さんが
「店長さんありがとう。楽しかったです。」
のセリフ。
楽しかったことを伝えているだけの様子なのに
千太郎さんがそれを受け取り、
自分の不甲斐なさや、徳江さんの健気な愛や、
徳江さんのこれまでの人生を考えたり、、
いろいろ思うことがあったのだろう。
それがこちらに伝わり、涙腺崩壊した。

樹木希林さんは
日本を代表する大女優だなと改めて思った。
Myke

Myke