【万物の初めと終わり】
日本には昔から八百万の神といって万物に命が宿ると考えられた。
それはもちろん食材にも共通することでありその生命を食すことによって
人は次の世代へ生命を繋ぐことが可能となる。
その繋ぎによって心の臓は意識をしなくても鼓動を打つ。
私たちはいわば生命を糧に「生かされている」という状態なのだ。
ところが私たちはその感謝を忘れて日々を過ごしている。
これは自然という万物の物に注視し
聞こえないものに耳をすまし見えないものを目する人たちの物語。
ハンセン病棟というカゴに囲まれて生きてきた樹木希林が演じる徳江。
借金と暗い過去というカゴに囚われて生きてきた永瀬正敏が演じる千太郎。
理解のない母親というカゴから飛び立とうと生きてきた内田伽羅が演じるワカナ。
それは小さく凝縮されたどら焼きの中の餡のようだ。
「あんたは生まれてきてよかったんだよ」
餡に語りかける徳江の声はまるで自身に語りかけているようだった。
私たちは偏見のない視点で生きていると言えるのだろうか?
生命の声を聞いているといえるのだろうか?
原作者のドリアン助川に監督がハンセン病患者の集まる奄美和光園の療養所に行った時に
送ったメールのエピソードが印象的だ。
「初めてわかりました。病んでいるのは囲いの外です」
弱き人をそっと包み込めるどら焼きのように
美味しい餡になろうねと語りかけることができるように
「あ」で始まり「ん」で終わる日本の理のように
私たちは優しく有りたい
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