もっと淡々としたストーリーだと思っていたのにこんなに面白くて泣けるだなんて、意外でした。
監督の熱い想いや役者の魂の演技。
この映画は河瀬直美×樹木希林×永瀬正敏でなければなし得なかった作品です。
世間から見ないふりをされ続けていた人々の重くて悲しい人生から身につけた丁寧な生き方。
春の桜並木に感動し、美しい鳥のさえずり、緑そよぐ夏の風の音や冬の白い吐息。
日本の美しい四季のなかで繊細な心で物事を見つめる徳江さんの姿が美しくて、優しくて、見ているだけで涙が出ました。
わたしもつい、都会の日常のなかで小さなことに腹を立てたりイライラしたり、空も見上げず、足元の草花にも目もくれず、日々を過ごしてしまうことがあるけれど、この映画の徳江さんの言葉によって、自然の中に抱かれている自分自身のちっぽけな存在に気付かされて、恥ずかしい気持ちにさえなりました。
一般社会から隔離された彼らのほうが、私たちよりもよっぽど人間らしく、血の通った人々なのかもしれません。
この映画は、ハンセン病について深くは語られません。
しかし、徳江の歩んだであろう壮絶な人生については、深く語らずとも彼女のどら焼き屋で働くことを少女のように、喜ぶ姿だけで充分に伝わり、熱いものを感じずにはいられませんでした。
人生の殆どを差別と偏見と隔離の中で過ごした徳江が数ヶ月間、幸せだったと心から信じたい。
そして徳江さんからもらった暖かくてかけがえのない優しさが、千太郎とわかなちゃんの中に響き、これから生きる活力となってほしい。
映画を観る私も徳江さんからこのかけがえのない宝物をいただけたのでこれはみんなも味わって欲しい。
きっと河瀬直美さんもそんな気持ちで作られたのかなと思います。
自由に、笑いながら生きることが、どんなに素晴らしい幸せなのか教えてくれる映画は沢山あれど、こんなにまでこころの一番深いところに響いて心底から涙が絞りとられた胸を抉られるような作品は久しぶりでした。
前半は2人のすっとぼけた会話に笑い、最後は心の底から泣けるような、この素晴らしい映画に出会えてよかった。
そして自分の生きる価値が見出せない人達に是非見て欲しいと思いました。