あーさん

あんのあーさんのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
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先延ばしするのはやめよう!シリーズ その1

年末年始は気ぜわしく、年が明けてからもバタバタと落ち着かない日々。。
劇場にも行けず、何だか心が重いなぁ、、と思っている時にフッとできた時間。

そんな時に、昨年の樹木希林さんに続いて先日お亡くなりになられた市原悦子さんのことをふと思った。

そうだ、"あん"を観よう。


ハンセン病の患者が、かつて強制的に療養所に隔離されていたということは知っていた。
1996年にようやく"らい予防法"が廃止され、その後小泉内閣時代、患者ら原告が勝訴した裁判で国が控訴しないと決め、(多少政治的な意図が働いたのかもしれないが…)積極的に謝罪、補償が行われたことは記憶に残っている。
喜ばしいことと思いながら、あまりに長い年月を要したのではないか、、とも思った。

差別すること、されることは苦しく決して許されるものではない。
"よく知らない"ことが"恐れ"に繋がり、敵対関係を作る。人種、性別、病気…差別の理由は、あちこちに転がっている。
そんな人間の心の弱さを描きながら、それでも強く、たおやかに生きる徳江さん(樹木希林)の姿を、優しく美しく、私達の前に映し出してくれる今作。
不思議なことに、重いテーマなのに私は清々しささえ感じた。。

"差別との闘い"みたいに肩ひじ張って主張するのではなく、差別されてもひがんだりささくれだって生きるのではなく、小豆の声を聴きながら、餡を作り、人を思う。
風の音を聴き、桜の花びらに手を振り、普通に働いたり子どもを待つことを夢見た徳江さんから、たくさんのことを学んだのは、やはり心に傷を持つ千太郎(永瀬正敏)だけではなかった。
千太郎のどら焼き店にやって来る、中学生ワカナ(内田伽羅)もその一人。

ゆっくり丁寧に、それぞれの心の内を描く、河瀨監督の相変わらず説明しない撮り方、好きだなぁ。。

そして、永瀬正敏!
若い頃好きだったが、キョンキョンと離婚してから何となくひすぼってしまった感が否めず、あまり見なくなっていた。。
が、年齢と生き方が少し丸くなった背中に滲む。
そこには、千太郎という男の哀しみや悔しさ、やるせなさが漂っていた。
やっぱり惚れ直した!笑
腫れぼったい一重、なんてこと無い服を着ていても溢れる色気、、
うん、やっぱり好きだ♪
永瀬正敏は、不器用でまっすぐな男がよく似合う。"パターソン"の'uh-huh'よりも断然こっちがイイ!笑

市原悦子も現場での稽古に厳しい人だったと聞く。
樹木希林の絶対的な存在感。
この人達の表現力は、追随を許さない。
敵わないなぁ。。
この2人がシリアス一辺倒になりそうになる物語に、丸みとリアリティを持たせてくれた気がする。

徳江さん、、
生きる意味を教えてくれて、ありがとう❗️
あなたの桜の花びらに手を振る姿が好きです。
あなたの作った餡と千太郎さんが焼いた生地のどら焼き、食べたいです。。




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TVで市原悦子さんを偲ぶエピソードに、こんなのがあった。
千葉県出身の市原さんは、映画界の大先輩から"千葉っぽい顔だね"と言われたそうだ。
その時、とてもショックだったという。
多分、そこから彼女は自分がどんな風な演じ手になれば良いのか、ずっと模索しながらやってきたのだと思う。
まんが日本昔話の語り部は、彼女の天職とも言えよう。
第一線で役者の道を走り続けることは、たやすいことでは無い。
無理のない自分らしさを持っている役者だけが、生き残れる世界だと思う。
女優も、ただ綺麗なだけではダメ。
個性がなければ。。
そのことを深く、真摯に考え続けた人だったと思う。


唯一無二の存在であり続けた、市原悦子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
あーさん

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