イホウジン

あんのイホウジンのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
3.7
他者から自由を奪い、自分の自由も奪ってしまった現代の日本。

この映画を通して、「自由」が常にテーマとなっているのはよく分かった。どら焼き屋の2人は背景こそ違えど社会から自由を一時的奪われたことのある当事者で、たとえ後に自由が与えられてもそのレッテルに生涯苦しむことになってしまう。ただ、今作の傍観者の立場である私たちも自ずと「自分の良心に従う自由」を見失っているのではないだろうか。2人は自分たちが社会の被害者であるという立場からそのことの大切さに気付いていたが、それを世間の目が許さなかった点が悪い意味で日本らしい。

ただ、どうにも映画内の事象への深堀りが甘いように思えてしまう。全体に柔らかな感触でとても気持ちいい映画ではあるが、社会問題を扱うにはどうにも「毒」が足りない。特にハンセン病の場合、未だに芸術で取り上げることすらタブーとされるようなデリケートな問題であり、観客に向けた問題提起はもっとあっても良かったのではとも考える。戦争の話題以上に現在進行形で続く問題であり、優しさで包み込むにはまだまだ議論が足りない分野でもある。そういう意味で、もう少し社会の厳しさを描く場面が欲しかった。
あと中三の女の子の存在意義が謎。3世代の心の繋がりという意味では重要な立ち位置ではあるが、正直ストーリーの本流とあまり関係がない。女の子の家庭環境も謎だし、言動の理由もいまいち分からなかった。言ってしまえば彼女もまた加害に加担した人物でもあり、もっと突っ込めるものがあったように思えてしまう。
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