プリオ

怒りのプリオのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
5.0
当時、映画館で観てかなり衝撃を受けた。
一週間はその言葉にならない余韻に浸っていた。いや、引きずっていた。

李監督の中でも、一番好きな映画で、本も読んだ次第だ。タイトル通り、各々の怒りを描いていく。自分への怒り、他人への怒り、救いようがない怒り、救いようがある怒りなど、様々な怒りが丁寧に描かれている。


<よかった点>

○李監督は役者に対しての演技指導が厳しいことで有名だが、その分非常に見応えがある。

いわば、彼の演技指導が厳しく監督として恐れられているというのは、作品の価値を上げる効果もあると思っている。実際指導は厳しいという事も、いい宣伝になる。

演技がどのキャストも良すぎて、特にこの人と決めるが難しい作品。渡辺謙のいかにもいる堅物おじさん、宮崎あおいの頭の弱い女、松山ケンイチの得体の知れなさ。妻夫木聡と綾野剛は、俳優生命に支障をきたす程の、体当たりの濡れ場演技。広瀬すずはアイドル女優ではないことを見せつけて、森山未來は一番難しい役を演じ切った。 

でもあえて、言うなら渡辺謙と広瀬すず。
本を読んでから見ると、渡辺謙の表情管理が父としての葛藤を凄まじく表現していることが分かる。あのスタイル抜群の日本を代表する俳優が、そこらへんのおじさんにしか見えないのは凄いこと。

広瀬すずは、この映画で僕の中で株が一気に上がった。思ってもみない残酷なシーンを演じていて、映画館で初めて顔が引きつったと思う。それほどリアルなシーンに仕上がっていて、彼女が今作のオファーを引き受けたことに役者魂を感じた。
 

○ありそうで、こういう映画はないような気がする。「楽園」と少し似ているが、「怒り」の方がエンタメ要素は高めだ。犯人探しに重きを置いて、ちゃんとそこに答えてくれる。 


○三つの場所で繰り広げられるストーリー構成は、かなり編集によって見やすさ、面白さが変わってくるはずだが、見事にそこもクリアしてくる。壮大な音楽も相まって、上質な大作映画に仕上がっていた。


○考察しがいのある犯人のパーソナリティー。犯人の最後にとった行動の本当の意図は? 今まで、何を考えて生きてきたのか? 理解不能な言動が目立つため、かなり難解なのだが、そこを考察するのは実に面白いし、意義があるように感じる。


<沖縄編について>
どこにも向けることができない、変えることができない現実がある。沖縄編では、米兵によるレイプ、沖縄基地問題などが取り上げられる。

子供は怒りをそのまま我慢することなく、相手にぶつけるのが得意だ。どうにもできない不条理な現実の中で、純粋な中学生の心に怒りが芽生える始める。でも、言えない。言っても意味がないから。その胸の中で抱え込んでいる「怒り」が、田中と中学生の共通点だったんだと思う。

ラストは悲劇的でありながら、一種の高揚感を覚える。これは、すごいものを見たとなる。


<余談>
三者三様の結末を迎えるわけだが、それぞれの怒りを感じたい。 
プリオ

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