カラン

怒りのカランのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
3.5
『タクシードライバー』も『世界の中心で愛を叫ぶ』的な、、、


ミステリー群像劇だから、カットして別の群に移行しながら、シーンを重ねてまとめ上げようとするのだけど、カット割の想像力が乏しい。個々別々だが、誰でもびっくりするし誰でも当たり前に悲しい話を、ただ合成したら、何ができるのだろうか?暴力とポルノと大声の慟哭の映画だろう。かっこつけているが低俗なのである。

カットが場面を変える、時間を短縮する、っていう役割しか果たしておらず、上から殺人が行われた深い青の住宅地を捉える、上からライトブルーの海を捉える、無人ショットだけで、まったりとした編集になっている。おりにふれて映画に到来する「怒」や、殺人、レイプ等の衝撃的な出来事を除くと、やけに平坦である。その結果、『世界の中心で愛を叫ぶ』となんら変わらない叫び声がやけにうるさい。この映画は本来は関連しない3つの場を並列させており、1つ1つの場は当たり前の結果だけで順接で繋がっていく。そこがつまらない。例えば、

広瀬すずが黒人の米兵に酷いことをされて、両足は震えて閉じられないし口が塞がらなくなって涎が出てしまっている。次のシークエンスでは服が改まっているから時間が経ったことが示されており、助けてくれなかった男の子に彼女は大声で吠えまくる。そして青い海を上から映して、男の子は1人ぼっちで離島の森山未來の方へ。。。 この展開を辿ることがどんな映画的な悦びだというのか。。。

タクシードライバーの凶行と世界の中心での愛の叫びを、複数の場で同時並行で描いてみたというだけである。別の場への移行では、ある程度、この映画は映画らしくなる。妻夫木聡の場でクラクションが鳴って振り向くと、渡辺謙の場で軽自動車が呼んでいる。音がシーンをまたぐクロスカッティングのやり方は並列で楽しませるには確かに重要であるし、他のやり方でもっとやらないといけない。しかし、こうした場から場への移行に気を取られているので、1つの場の内部構造は内容の薄い印象であるが酷い暴力にあふれており、その当たり前の順接的結果であるうるさい慟哭だけが目についたり耳について、あとはびっくりお涙頂戴の話でおしまい。結局、タクシードライバーにもならないし、世界の中心にも行けない。また、渡辺謙は実際の育ちは新潟だが、どうも話し方が都会的で房総の海辺の労働者っぽくない。目つきはいいが。リボンをつけた宮崎あおいは、変だけど、この不思議系風俗嬢の役柄にはまっており、いつも通りにいい演技。


レンタルBlu-rayの画面はクリアーで明るいが、若干乾き気味で、けっこう飽きる。

サウンドは5.1ch DTS-HD Master Audio。驚くほどの充実ぶり。最近、DTSはドルビーに押され気味かなと思っていたから嬉しい驚きであったが、もったいない。海がだーんと広がって、車内での雨音が窓を下げると部屋中に広がるし、ゲイパーティーの爆音も感動的な音の展開を楽しませてくれる。
カラン

カラン