のあ

怒りののあのネタバレレビュー・内容・結末

怒り(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

友人にお誘い頂いたジャパンプレミアにて。


巷で綾野剛と妻夫木聡の同居生活が話題になっていたので、ほぼその印象のまま本作を観ました。
たぶんその二人(あるいは広瀬すず)目当てだと思われる、制服姿の女の子達も会場でちらほら見かけました。
が、そういう方々にはかなりきつかったんじゃないかなぁというのが、観賞後の私の感想です。
剥き出しの悪意と狂気と憎悪に、見ていて気分が悪くなるほどでした。
これはMOZUを観たときにも感じたものですが、私はこういった人間の純粋な汚い部分を直視せざるを得ない作品があまり得意ではないので、特に。
まあ得意不得意は置いておいても、中学生以下にはあまり見せたいとは思えない内容だったので、PG12はちょっと生ぬるいかなぁと思います。

以下、ほとんど話の根幹に関わる部分をネタバレしているので、閲覧は自己責任でお願いします。

本作はミステリーと謳いながらも、かなり社会派色の強い映画だと思います。
東京は性的マイノリティ。千葉は消費される性としての女性とシングルファザーと貧困。沖縄は米軍基地とシングルマザー。そして、全ての発端となる事件は、雇用問題と格差社会。
それぞれに、そういった現代の社会問題が絡められて描かれている。
むしろミステリーの要素は薄く、ヒューマンドラマの方に焦点が当たっていると言えるでしょう。
個人的には、それがひどく中途半端に思えました。
オムニバス形式で3ヶ所を追うストーリーであるにも関わらず、構成は非常に上手く、よくまとまっていました。
しかし、時間に対して取り扱った問題が多すぎた。
3ヶ所の話を2時間20分に収めなければならなかったため、ひとつひとつの問題がそれだけで深く掘り下げていけるような問題であるのに、うわべだけをなぞっている感が否めませんでした。
先に述べたように、ミステリーの要素も薄く、各地の犯人候補達を登場させるだけに事件があり、犯人探しや動機は申し訳程度に描かれるのみ。
推理や捜査、犯罪心理といった、いわゆるミステリー的なものはパラパラと散りばめられているだけで、その過程を楽しめるものではないです。
犯人が夫婦を殺害するに至った動機も、理解できるにはできるんですが、その部分だけがあまりに唐突で特に過去や背景も語られず、さらっと説明のみで終わってしまうため、観客への説得力に欠けていたように思います。
みじめだと思わないように他人を見下して生きていた歪んだ人間が、他人に純粋な好意としての同情をされてしまったら、最後のプライドすらも踏みにじられてしまう、馬鹿にされているように感じてしまう、というのはわからなくはないんですが…。

また、広瀬すず演じる泉が米兵にレイプされるという話には、多少の疑問が残りました。
確かに、米軍基地問題は現代日本において考えなければならぬ問題であり、米兵による犯罪は実際に起きています。
しかし、本作においてこの話の流れが必要だったのか。
本作の主題は米軍基地問題ではないため、一方的に米兵に不信感を募らせる演出には悪意を感じました。
原作のある話ですので映画のせいとは言えませんが、安易に沖縄や米軍へのマイナスイメージを抱かせてしまう危険性は、映像化するにあたって配慮すべき点ではあったのではないでしょうか。
泉がレイプされるシーンもかなり長々とリアルに映し出されており、冗談ではなく吐き気を催しました。
該当シーンを観て、トラウマになる女性、あるいはトラウマを思い出してしまう女性がいるのではないかと思います。
監督が男性であることに鑑みると女性への配慮も足りないのではないかなと。

と、脚本には個人的に色々と思うところがあったのですが、それでもこの2時間20分を支えている俳優さん女優さんの演技は素晴らしいの一言です。
東京の綾野剛と妻夫木聡。妻夫木聡演じる優馬の母が亡くなるシーンは胸が詰まる思いがしたし、 綾野剛はひたすらいとおしかった。
沖縄の森山未來の狂気は画面から迫ってくるし、広瀬すずの体当たりな演技にはこれからが楽しみになりました。
それから、広瀬すず演じる泉の同級生、知念役の佐久本宝くんの演技が本当に上手くて驚きました。彼の今後もとても楽しみです。
千葉の渡辺謙はもう完全に千葉の漁師にしか見えなかったし、松山ケンイチは可愛いし、宮崎あおいの白痴美とでも言うべき演技にはとにかく女優魂を見せつけられました。
彼女が声と顎を震わせて泣くシーンには、心が揺さぶられました。

手放しに絶賛できるかというと難しいところですが、観た後に重く何かが残る映画です。
そして、ただただ圧巻の俳優陣の演技は、観る価値があると思います。
のあ

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