えいがのおと

怒りのえいがのおとのネタバレレビュー・内容・結末

怒り(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

永遠に理解しきれない他人というものへの歯がゆさ、それに付随する怒りと悲しみを描いた作品。

就寝前に見る夜のニュース、悲惨な事件が世の中を賑わしていることを知ると、被害者に同情する。
しかし、数ヶ月し、被害者の過去、容疑者の置かれた状況を週刊誌、ドキュメンタリー等で知ると、一変して容疑者に対して同情してしまう、なんてことは少なくない。
吉田×李の前作『悪人』を観た時がそうであったように、私たちは簡単に同情、共感、そして信用をする。
本作は、そんな表層的な感性とは裏腹に、本気の想いへの理解の不可能性と、それに対する絶望が描かれる。
そして、その絶望の先に、浅薄な他者理解への怒りがある。
日雇い労働先を誤って教えられたことへの不快感、知り合いの少女への暴行を目撃した時の無力感、死を間近にして知る希望、借金取りに追われ続ける恐怖。
それらの感情は、簡単に共感できそうに思われたり、できなかったり、逃亡中の殺人犯の情報と共に撹乱されていく。
誰が犯人とかいうことでなく、この絶望の中で、どう生きようかと考えさせられる作品だった。
メインキャストの演技は皆全て素晴らしく、誰が主演と言いきれない。特に、島の男の子の役の子は存じあげなかったが、とても熱演であった。
三つに分けられる人々が、並行して描かれたが、同様のシーンによる繋ぎや、音声のみ生かし、別パートの映像で繋ぐものなど、とても工夫されていて、飽きさせない。
顔や、特徴などから、ミスリードも上手で、純粋に犯人が誰なのかと考えるのも楽しい。当然、そう考えている自分自身が、如何に彼らの言葉を信じれていないかということにも気がつく作品である。
衆知のメインキャスト意外にも池脇千鶴など、かなり有名役者が出演しているのにも驚いた。
セットの作り込みがすごいなと感じていたら、『バクマン。』の都築さんが担当しており、納得した。
非常にお金のかかった良作だが、鑑賞後、想像以上に気分が下がることだけは、仕方がない。