かえで

怒りのかえでのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.7
「信じる」とは一体何なのか、深く深く考えさせられる作品でした。素晴らしかった。
八王子で起こった夫婦殺害事件から1年。犯人は整形をして未だ逃走中という状況のなか、東京・千葉・沖縄にそれぞれ身元不詳の男が現れるところから始まる物語。

まずとにかくキャスト陣の演技が素晴らしく、一人ひとりが「このキャストでなければならなかった」と思わせる必然性があった。言葉は少なく、でも心の奥に押し込めた心情まで伝わってくるような、そういう演技が見事。広瀬すずのあの場面はもう本当に本当に胸が詰まるほど苦しかったけれど、この映画で間違いなく現時点での彼女史上最高の演技をしたと思う。
3つの物語が交互に展開されてゆき、場面もこまめに切り替わるのに、全然分かりづらくないし、むしろ良い相乗効果になっているのもすごいなあと思った。
2時間半近くという長さではあるけれど一切の無駄がなく、まったく飽きずに最初から最後までずっと引き込まれていて。観ているあいだじゅう疑心暗鬼になるのに、それと同時に「でもこの人のこと信じたいな…どうか犯人じゃありませんように…」と3人ともにひとしく思わせるのもすごい。

信じたことで起こった悲劇と、信じられなかったことで起こった悲劇と。信じることと疑うことは正反対のようで相互に作用しているものでもあり、疑うことで信じられること、信じたいからこそ疑ってしまうこと、そういうことも沢山あって。何が正しいわけでもなく、正解なんてどこにもないけれど、それでも不器用に、信じて、時には疑って、そういうことを繰り返して人間関係って成り立っているのかな、と思ったりした。
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