ばお

怒りのばおのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.6
エンディングクレジットが流れている中、放心状態になってしまった。久しぶりに観た後に、じっくりと考えさせられる映画だった。

あなたはどんなことがあっても愛する人を信じられますか? ー これがこの映画の一番のテーマだったのではないかと思う。
どんなに愛する人であったとしても一度は不信感を抱いてしまう。逆に、信頼していた人間から裏切られることもある。殊更、愛子や優馬、泉のように心に傷を負っていたり、トラウマを抱える人々にとってに信じることは難しい。
この映画はそんな人達の信じるという行為にまつわる心の動きを繊細に描いていた。

当初、殺人犯は誰なのか?というサスペンス的な話なのかと思ったが、それだけではなく先にも上げたように、人間の隠れた負の感情
にフォーカスした内容だった。原作・監督が悪人のコンビであったので、同じような空気を感じ取れた。

ストーリーはもちろんのこと、演技派揃いの役者で誰が欠けても、この映画はここまでの評価にならなかったというくらい素晴らしかった。宮崎あおい、森山未來の動的な演技、そして渡辺謙、妻夫木聡、綾野剛、松山ケンイチ、広瀬すずらの静かながらも陰のある目で訴えかけてくる演技は文句のつけようがない。オーディションを勝ち抜いた辰哉役の佐久本宝はとても新人とは思えない。また周りを固めるピエール瀧、池脇千鶴らの脇役も光っていた。

この映画のタイトルである「怒り」は何に対する怒りだったのか。様々なものに対する怒りが凝縮されていたが、私は自分に対する怒りが大きかったのではないかと思う。愛する人を信じられなかった、愛する人を裏切った自分への怒りの感情だ。

原作にはない犯人の殺害動機に関する部分が少し消化不良に感じたので、あるならあるで深堀っても良かったという気はしている。
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