なっこ

怒りのなっこのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
3.4
画面が暗くなって、エンドロールまでの一瞬立ち上がって拍手をしたくなる衝動にかられた久しぶりの作品。

これは、人が人を“信じたい”と思うその瞬間の心の働きに重きをおいた作品なのだと思う。

人と人の間はどんどん離れていっていて、でも逆にその距離を埋めるためにいざこざを乗り越えようとすることなく簡単に済ませようとする人が増えてしまったのかもしれない。
本来、この距離はそう簡単に埋まるものではないのに。

“怒り”の前には必ず悲しみや傷付きがあるもの。
人と人は、そんな傷つけ合うことなしに近くに寄り添うことなど出来ない。信頼とは、時間をかけて築いていくべきもののはず。疑ったり、傷つけそうなことをぶつけてしまうのは当たり前のこと。

簡単に怒るのは、簡単に信頼し過ぎているのだ。世の中も、自分自身も。自分が本当にその信頼に足る人物かどうか、自分が一番よく知っているはずなのに。

知ろうとすること。

それが私たちに出来ること。
現代の作家が描いた現代の日本が舞台の物語。そのために、起こる事件の一つ一つは、私たちの身近で起こる可能性のある事件であり、実際に起きていることでもある。
私たちは、この問題から遠く離れていることは出来ない。
この“怒り”は、その事件へと向けられるべきものではないのか。健全に怒るために、まずは知らないと、今起きていることを。
本当にやるせないのは、自分の傷付きや怒りに世間が全くの無関心であること、その絶望だったのではないだろうか。
なっこ

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