言われてみれば、たしかに意外となかったキング牧師を主役とした映画。
マルコムXやその周辺の人たちの映画は見たことあるけど、キング牧師そのものの映画ってなかった気がする(遺族の方々が権利関係にシビアらしい)
キング牧師って非暴力を貫き公民権運動を勝利へ導いた、アメリカ史における紛れもない偉人ではあるけど、そのせいで聖人君子としてのイメージが付きすぎている人物でもある。
だけど実際には当然のことながら、とても政治的な戦略に熟達した人であって、相当な重責や脅迫・誹謗中傷、そして暗殺の危険性をも背負いながら運動を進めていった。
そんな彼の戦争が極に達した状況にあった時期に起きたセルマの大行進、そしてその最中に起きた血の日曜日にフォーカスを当てて映画化したのがこの作品ということになる。
そもそも“非暴力”といえば聞こえはいいものの、それって殴られてもやり返さないで一方的に殴られてる姿を報道して世論の同情を集めるというメディア戦略なわけで、つまりはじめから殴られたり殺されたりするリスクを承知の上で行われるものである。
それだけ聞けばマルコムXの姿勢よりも危険は大きい戦い方とすら思えてしまう。
そんな戦いを主導するキング牧師がどういう心境だったのか。そして大統領、州知事、そしてFBIのフーバー長官らからの陰湿な妨害工作など人間キング牧師が描かれていく。
映画が素晴らしいのも去ることながら、エンディングで流れるジョン・レジェンド&コモンの『Glory』も素晴らしい。