シズヲ

懲罰大陸★USAのシズヲのレビュー・感想・評価

懲罰大陸★USA(1971年製作の映画)
3.8
ベトナム反戦運動に対する非人道的弾圧を描いたモキュメンタリー映画、つまりフェイクもの。公開当時は各メディアから猛バッシングを喰らい、また映画館においてもごく短期間で上映が打ち切られるなど、色々と曰く付きの作品。当時はハリウッド映画においてもベトナム戦争絡みの話は婉曲的に語られる程度に留まっているので、本作の内容はニューシネマとしても攻めまくっている。

“灼熱の砂漠を90キロ以上歩かされてゴール地点の星条旗を目指す”という刑を課せられる懲罰公園の非道ぶりが強烈。行進させられる反戦運動家たちは監視者である警察と軍隊によって“制圧”の口実を作られ、結局は取り押さえられるか射殺へと追い込まれていく。国家への忠誠の強要、権威による蹂躪をカリカチュアして描いている。

とはいえ、よくよく考えるとやってることは『バトル・ロワイアル』みたく荒唐無稽なデスゲームの類いである。スケールの大きさに対する懲罰の回りくどさ、取材班による撮影を許している不可解さなど、噛めば噛むほど胡散臭さを感じてしまう。また過酷な行進に記者が何事もなく追従したり、作劇的なカメラワークも散見されたりするような演出の不自然さも気になってくる。裁判のシーンも役者陣の迫真の演技によってインパクトはあるけど、主張も含めて一様な描写が続くので次第に食傷気味になってくる。

それでも本作が何だかんだ印象に残ってしまうのは、やはり不気味なまでの緊張感が貫かれているから。どことなく漂う低予算感の裏付けでもあるけど、終始に渡って“裁判”と“懲罰公園”だけで撮影が完結しているのが印象的。いずれの場面においても反戦運動家たちは吊し上げられ、不条理な弾圧によって虐げられていく。そんな様子を映画は淡々としたテンポで描写し続け、要所要所で挟まれるインタビューによって被告側と権力側の“断絶”もまた浮き彫りとなる。カメラマンに向けて淡々と銃の説明をするような下りも恐ろしいが、18歳の若き軍人が「銃が暴発した」と動揺し続ける終盤の1シーンは只管痛ましい。

延々と平行線の議論が繰り返される審問の様子もそうだけど(思想の噛み合わなさは現代でも嫌に生々しい)、どう足掻こうと最終的には“権威の暴力”が立ちはだかるので閉塞感が際立っている。全編を通して誇張感や虚構性は拭い切れないものの、前述の通り戯画化された権力の暴走として見れば十二分に恐ろしい。そうして蓄積された諦念と絶望感がラストでどっと押し寄せてくる。唐突なエンドロールの冷徹さよ。
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