dm10forever

鬼のdm10foreverのレビュー・感想・評価

(1972年製作の映画)
3.9
【和】

「鬼滅の刃」のレビューを書こうと思って検索していたときに見つけたタイトル。

川本喜八郎と言えば、もう30年以上前にNHKで放送されていた「人形劇三国志」が大好きで、それ以来、僕の中では偉大な芸術家としてインプットされていました。

それを見ていた頃、僕は訳あっておばあちゃんの家に預けられていた。

リビングには苦手な曾祖母がいつもいたため、僕はおばあちゃんの部屋で過ごすことが多かった。

で、そんなときにTVから流れてきたのが「人形劇三国志」。
なんかね…多分その当時のちょっぴり寂しかった状況や、静かなおばあちゃんの部屋の中で(コチコチコチ…)となり続ける時計の無機質な音、桐の箪笥から香ってくる樟脳(しょうのう)の尖った匂い、ガラスケースの中からこちらを見つめる日本人形…
様々な環境要因と、川本喜八郎氏の作り出す、血の気のない人形に宿る喜怒哀楽のコントラストがピタリとはまって少年の心を掴んで離してはくれなかった。

だから、今見ても何処からともなく香る樟脳の匂いに、あの頃が鮮明に甦ってきて、今は亡きおばあちゃんを思い出す。

…………

~人の親の、あまりにも年老いたものは必ず鬼となり、子ですらも喰うようになるものである。
なんと恐ろしいことではないか、と世間では語り伝えられた(今昔物語)。

寝たきりの母の世話をする2人の息子。
彼らは鹿わなを仕掛けるために、夜遅くに森へと向かう。

森の中で、人ではない何かに襲われた二人は胸騒ぎを感じて母が待つ家へと急ぐ。
そこで二人が見たものとは…


もう、先に書いた一文が全てですよね。

誤解を恐れずに言いますが、それこそ「姥捨山」のような価値観、死生観にも色濃く出ているけど、きっと当時の日本人の精神性というものが反映しているんだろうなと。

それは「自分でなくなったものは人にあらず」のような。

つまり、自分のことを当たり前のように出来なくなったもの、それは年老いて動けなくなってきたことも含めて、そうなったとき、人間は次の世代に道を譲るべき…というような。
正しいかどうかは別問題だし、いつぞやの障がい者施設で起きた無差別殺人とは全く違う、人間としての尊厳や潔さを求めたような考え方。

無論、当時は「認知症」なんてものは理解されていないし、年老いて徐々に変わっていく親の姿を見て「化け物憑き」のように感じただろうことは容易に想像がつく。

価値観の今昔に限らず、子を思う親の気持ち、親を思う子の気持ちは、他者の物差しで計りうるものではないけど、それでもこういう話が語り継がてきたという時代背景やお国柄などを考えると、やっぱり日本的というか、よく言えば「和を重んじる民族」でありながら、悪く言えば「和からはみ出たものを一斉に叩く」という、ちょっぴり背中が冷たくなるドライな一面も感じてしまう。


※本レビューにて老人や障がいをお持ちの方について触れましたが、決してそのような方を卑下するような意図はありません。
ただ、ご不快な思いをされた方がいらっしゃいましたら、この場でお詫び致します。
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