takanoひねもすのたり

詩人の生涯のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

詩人の生涯(1974年製作の映画)
3.5
カットアウトアニメーション。
鉛筆画で描かれた作品。

原作は安部公房の「詩人の生涯」

ホラーじゃないのですが、色味が沈んでいるのと、登場する人物の表情が不気味。

母が内職の糸車を踏んでいる。
やがて糸が切れ……そして何故か母が糸になり紡がれてしまう。
紡がれた糸車は翌日職人の手に渡りジャケツ(本文まま)になり。

おかんが糸車に巻かれるシーンが静かにホラー。手先がひゅうんと糸車に巻かれ、顔が、体が、足が、最後に衣類だけがひたりと残る。
おかんの表情といい、カットの流れといい、不気味。

やがて冬になり寒さで凍りつく息子。
母が編まれたジャケツは倉庫に眠っていたが心臓の部分に鼠の齒が刺さり赤く染まってゆく。
ひらひらと息子の元へ向かうジャケツ。

このシーンも何だか怖い。
くすんだ色に突然の赤。
幽霊のように舞うジャケツ。
母の息子を思う気持ちの強さ……なのですが、音楽も相まって不気味さが先に立つ。

原作で安部公房はこう書いています。
『ジャケツを買うことのできない貧しさが、彼らをジャケツで包む必要のある中味を持たぬほど貧しくさせてしまったのだ。
人は貧しさのために貧しくなる』