糸くず

母と暮せばの糸くずのレビュー・感想・評価

母と暮せば(2015年製作の映画)
3.8
山田洋次がついに死者の世界に突入した記念すべき問題作。

冒頭の原爆投下のシーン。字幕で説明される原爆投下の日の状況、モノクロで描かれる何気ない日常、そして、熱線によって消失していく人・もの。

近年の大林宣彦の映画を思わせるような異様なオープニングに、「これは相当ヤバいかも……」と思う。

カラーになってからも、メンデルゾーンのバイオリン協奏曲を指揮する浩二(二宮和也)の前で揺らめく影絵、夕焼け空の下で腕を振りながら校歌を歌う浩二、血まみれでガリガリに痩せた兵隊姿の長男と彼の仲間など、「山田洋次じゃなくて大林宣彦の映画を観ているんじゃないか」と錯覚するような常軌を逸した演出がところどころに。

吉永小百合のぎこちない演技も、真っ当さではなく、狂気の方向に振られていて、なかなかしんどい映画なのだけど、黒木華の初々しさと頑なさ、加藤健一の軽妙さと「今」を生き抜くための図々しさがいい清涼剤になっている。

ラストは、母と息子で彼岸へと飛び立ってしまうのだけど、「すごいなぁ……」と思いつつも、わたしの中では、「山田洋次には最後まで地に足の着いた映画を撮ってほしかったな」という思いもあって、ちょっと複雑。でも、とんでもない映画なのは間違いないので、ぜひ映画館で目撃してください。
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