鈴木ドミノ

THE COCKPITの鈴木ドミノのレビュー・感想・評価

THE COCKPIT(2014年製作の映画)
4.0
早稲田松竹で「ケイコ 目を澄ませて」と二本立て上映。

半ば鑑賞を諦めていた作品なので、ついにこの日が来たかという感じで観ていた。

特に刺さったシーンが2点

・ビートの骨子ができた段階でOMSBが一休みしに席を立とうとした瞬間、bimが「この音良いっすね」と話しかけたことがきっかけで足されたピアノリフ。

偶然の産物としてビートが決まっていくプロセスはビートメイキングをしている者なら誰しもが共感できるシーンである。

サンプリング(他者の楽曲を用いること)という手法は杓子定規かつ予定調和的になりがちと評価されやすい。しかし上記のような小さな奇跡の積み重ねこそ、サンプリングでビートをつくる醍醐味であり、まさにビートメイカーの魔法である。


・ビートメイクシーン、特に前半30分は試行錯誤の連続である。本来ならバサっとカットしてしまっても良い「失敗と成功の繰り返し」をあえて切らずに使っていることが素晴らしいと思った。

平時、我々リスナーは完成品、つまりアーティストから供給される甘い蜜を吸っているため、創作に付随する「産みの苦しみ」を目の当たりにしないことがほとんどである。

前半30分で席を立つ人も数人見受けられた。「苦しいシーン」が続くため全く同情するが、創作の楽しさと苦しさこそ監督が本作で伝えたかったことだと思う。

本作を観終わったあと「ケイコ」は見ずにまっすぐ帰宅して埃の被ったサンプラーのスイッチを入れた客は自分だけじゃないと確信している。
鈴木ドミノ

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