せんきち

ジョン・ラーベ 南京のシンドラーのせんきちのレビュー・感想・評価

3.8
DVDにて。

日本では配給会社から上映拒否されたのでここ数年、有志が上映会を行っている。毎回盛況のようだ。事実、面白い。

ドイツ・ジーメンス社の南京支社長ジョン・ラーベは日本軍の南京進行の中、成り行きから市民の安全を守るため南京安全区国際委員会の委員長に選ばれてしまう。市民だけを守るつもりの安全区は敗走した中国兵をかくまってしまう。中国兵がいることがばれたら全員日本軍に処刑されてしまう。南京で虐殺が繰り広げられる中、ジョン・ラーベ達の決死の隠蔽が始まる。


面白いのは主人公達がリベラルな聖人ではない所。ジョン・ラーベ、共に委員会で協力する皮肉屋の医師ウィルソン(スティーブ・ブシェミ!)も東洋人に対して差別的だ。彼らが西洋人に比べ劣っているという態度を全く隠さない。しかし、虐殺を前に助けざるをえなくなる。

成り行き上、弱者の側に立った人達が命がけで彼らを守ろうとする物語。

そう!本作の構造はルワンダ虐殺を描いた傑作『ホテル・ルワンダ』と全く同じなのだ。どっちも実話なのだが、勇気溢れる人がなす正義よりもどこにでもいる普通の人が振り絞る正義の方が胸をうつのだ。


暴力の権化である悪役に知恵と勇気で勝利する所なんか泣いてしまうのだが、『ジョン・ラーベ』の場合は流石に脚色だろう。ジョン・ラーベと朝香宮鳩彦王は会ったことないって書いてあるし。『ホテル・ルワンダ』の場合、絶対脚色だろと思ったクライマックスが事実でびびるんですが。

ドイツ映画賞、バイエルン映画賞をとったのも納得で、戦争もので常に悪役にされるドイツ人が英雄になる本作は誇らしいのだろう。序盤でぐっとくるのが日本軍の爆撃を避けるため巨大なナチの旗の下に中国人を隠す所。ユダヤ人虐殺のシンボルであるナチの旗が中国人を守る皮肉!

本作で素晴らしいのは同情の余地が全くない悪役朝香宮鳩彦王を演じた香川照之!昭和天皇の叔父で南京事件に深く関わった男を演じること。『日本のいちばん長い日』で本木雅弘が昭和天皇を演じるリスクとは比べ物にならない!よくオファーを受けたと思う。

ただ、本作は30年前に製作されていたら上映禁止にはならなかったと思う。日本軍の捕虜虐待を描いた『戦場のメリークリスマス』が大ヒットした時代だもん。時代は変わったと真剣に思う。しかし、配給会社が断った本作を市民団体が上映会してるのは一縷の望みだ。

DVDも出てるので上映会に行けない人は買ってでも観るべし。映画マニアにはスティーブ・ブシェミがスティーブ・ブシェミ史上最もかっこいい役をしてるので必見でもあります。
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