Kota

スラッカーのKotaのレビュー・感想・評価

スラッカー(1991年製作の映画)
4.6
大好きなリチャードリンクレイターの初期作。彼の才能にはいつも驚かされる。90年代テキサスの錆びれたオースティンを舞台に繰り広げられる会話だけのリレー。この映画の凄いところは「主人公がいない」ところ。いや、もしくは全員が主人公なのかな。映画には主人公がいてその目線で物語が進むのが常識。しかしこの映画はほんの5分も経たないうちに、たまたますれ違った人やカフェで隣の席にいたグループなどのいわゆる“モブ”だった人に視点が写る。そしてそれぞれの“スラッカー”達はくだらない自論や、悩みや、愚痴を永遠と話し続けてオースティンの1日は終わる。

町を歩きながらの人々の会話だけでこんなにも面白い映画(ビフォアシリーズも然り)が撮れる監督を彼以外に知らない。他でもなく冒頭のバスに乗っている青年はリンクレイター監督自身である。“6歳の僕が大人になるまで”で子供時代を、“エブリバディウォンツサム”で学生時代を。リンクレイターはいつも“時間“というものの大切さに気づかせてくれるが、この映画は特に1日という時間に焦点が当たっている。この世界の何十億人の人(映画ではモブの一人のような人)は今まさにそれぞれの1日があり、それぞれの人生を過ごしている。そんな当たり前のことを映画を通じて感じさせてくれる彼は本当に天才だね。この映画に影響を受けて、ケヴィンスミスの“クラークス”が撮られた話がとても納得できる(これまた大好きな映画)。

どうしよもないけど、愛おしい世界。画面に映り切らない人生の数。またベストムービーが1つ増えた。
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