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恋人たちのdeenityのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.5
橋口監督の7年ぶりの長編映画ということでかなりの期待でした。
本作は自主映画のような形で撮られ、些かチープかもしれないがメッセージ性の強さをより感じた。さらに現実のありのままを映した雰囲気や、無名の俳優を使ったり(これがまた演技の上手いこと!)とドキュメンタリーのような生々しさで見ている観客にじんわりと染み渡る。これが橋口監督は撮りたかったのか!そんな映画でした。

本作は通り魔に妻を殺された男、旦那がありながら他の男に思いを抱いてしまう主婦、ゲイの弁護士、という三点からの視点で物語は進んでいく。
個人的に言わせてもらえば妻を殺された篠原篤の役が演技も含め一番心に残ったが、誰もに共通して言えるのは現実のクソみたいな世界の中で這いつくばって生きているということ。他人のことを対して理解もせずに避けたり蔑んだり。それに加え自分の思った通りにできず、歯がゆくもどかしく切ない。
現実に絶望し、ある者は犯人を殺したいと思い、ある者は家庭に居場所がなく逃げ出したくなり、ある者は好きな男に避けられないようにする。

じゃあそれを無理にでも通すかって言ったらそうでもなく、そんなことしたら今の場所にはいられないから。してはいけないとわかっているから。それでも今の自分に満足しているわけではない。そんな中でも生きていかなけりゃいけない。それじゃあどうしたらいいんだ。

「腹一杯にして笑顔でいりゃ何とかなるから」
みんな何かを我慢して不満を抱え歯食いしばって生きている。結局他人だから自分の気持ちはわかってもらえないかもしれない。それでも生きていたら、そこにいたら話をすることくらいできる。そうやって日々を生きていけば、這いつくばってないで前向いて上向いて生きていけば、何とか生きていくことくらいできる。生きることは大変だけど、生きていたら何かきっといいことあるだろう。そんな気持ちにさせてくれた。

自分の中では圧倒的に篠原篤の役がハマってしまったからその視点よりに解釈が寄りがちになってしまう。篠原篤なんて俳優は全く知らなかったけど、すごい演技だった。演技というよりもあれはマジだったんだろうとも思わせるほどの泣きのシーンには正直しびれた。
自分のつまんない人生を何とかしようとして、希望の光に進んでいこうとする主婦を演じた成嶋瞳子もいい表情だった。
わかりづらかったのはゲイの弁護士の解釈。もう少し意味があったんだろうな、と思う。
婉曲的ではあるけどド直球な映画。時に笑いを挟みながら時に涙が込み上げさせながら退屈することなく見ていた。もっと自分がこの作品を見るに相応しいタイミングだとしたらもっと響いただろうな。また見たい。

とりあえずラストの三人と青空。いいな。何か。
最後のカットは黄色のチューリップ。花言葉は「叶わぬ恋・正直」なのか。現実を見つつ思いは忘れず立ち上がっていこうという解釈がいいのかな?深読みすぎかな?
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