この物語は、自分がいる世界のどこかで今実際に起こっている出来事なのではないかと思ってしまうほどリアルだった。
高橋瞳子が恋に落ちた時の行動や表情や仕草は観ていてとても痛々しく、とても愚かに感じた。しかし、彼女を馬鹿にできなかったのは、自分にもそういう経験があり、いつか自分も高橋瞳子のようになってしまう可能性があると感じさせる危機感のようなものを感じたからだと思う。
篠原アツシはとにかく可哀想だった。アツシの代わりに俺が犯人を殺してやりたいと思うほど、アツシに自分の心が寄り添っていた。凄惨な出来事があったにも関わらず、社会はアツシに対してどこまでも冷徹で、どこまでも無関心で、しかしそれは現実では当たり前のことだと思うとやり切れなかった。アツシが高架下から覗く青空を見上げた時、あの小さな青空がとても大きな救いのように感じた。
四ノ宮は上の二人に比べるとお世辞にも好きとは言えない人物だったが、最も救われて欲しいと願った人物だった。。決して叶わぬ恋、と言えばどこか聞こえがいいが、そんな手垢の付いた言葉では済まされない彼の強い思いは、他人からの理不尽な偏見で瞬く間に潰されてしまった。彼にとっては気の遠くなる程の長い期間、自分の感情を押し殺し、それを表に出したら一瞬で崩れてしまうと感じられる二人の関係が、潰されてしまったのだと思えば、悲しかった。万年筆を見ながら流した彼の涙は、とても静かだった。
これから三人がどういうふうに人生を歩むか想像した時、その想像は、自分がどういうふうにこれからの人生を歩みたいかと、同じことなのではないかと感じた。