むさじー

恋人たちのむさじーのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
3.6
<可笑しくもリアルに描く不器用な男女の生き様>

橋梁点検の仕事をするアツシは、3年前に愛する妻を通り魔事件で亡くし、それ以来自堕落な暮らしをしている。夫との仲は冷え、合わない姑と同居する瞳子は、パートで知り合った肉屋の男と不倫するが男は薬物中毒だった。弁護士の四ノ宮はゲイで、恋人と別れたばかり。ずっと好きだった同性の友人が家族連れでケガの見舞いに来るが、その妻からは偏見の目で見られてしまう。
生きる希望が見いだせない、閉塞感の出口が見えない、マイノリティとして生き辛さを抱えている。そんな人たちが「思い通りにならなくても、それでも進んでいく」と前向きに再生していくストーリー。ラストはそれぞれに自分なりの着地をする後味のいいエンディングだった。
映画製作はワークショップからスタートしていて、主役三人は素人同然なため、監督自身が俳優に合わせたキャラ設定で当て書きした脚本とのこと。それゆえ三人の醸し出す雰囲気、存在感は半端ない。そこに感じるのはドキュメンタリーのようなリアリティ。というよりリアルな生活感といった方が近いかも知れない。
その生々しさには圧倒されるのだが、それに頼りすぎてストーリーのリアリティ不足を感じてしまった。アツシは取り巻く人たちとのエピソードが弱く、瞳子は肉屋&スナックママとの関わりが非現実的で、四ノ宮はゲイの苦悩が浅すぎる。それらが共感を妨げる要因のように思えた。
とはいえ、社会の縮図のような、地味に生きる不器用な男女の生き様を繊細に、温かい空気感で描く橋口ワールドの居心地は悪くない。
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