すえ

永遠に君を愛すのすえのレビュー・感想・評価

永遠に君を愛す(2009年製作の映画)
3.5
記録

これが『PASSION』を撮ってしまった後だからなぁ、やりたいことが上手く脚本と噛み合ってないんじゃないかと思ってしまう、作家性がキチンと発揮されていない。何もアカデミックな作風だけが良いとは言わないが、濱口竜介はその方が作家性が出現するんじゃないか。今作はどうしても俗っぽさが強く、纏まっていない印象。

彼はコミュニケーション、広義に解釈するところの愛、それにおける階層構造の可視化を試み、それを会話や視線、それを内包するショットで語る。今作においてはその階層秩序に包含される嘘の露呈、その真実が逆転する瞬間のインパクトが弱い。

濱口竜介と乗り物との相性はやっぱり抜群に良い、とても良い撮り方をする。乗り物の振動が被写体を、キャメラを震わせる、その視覚的な不安定。
また、人間関係の不安定性は徐々に安定していく音楽と対照的に増していく。セッションでより通じ合ってゆくバンドが、河井青葉と岡部尚のふたりと対比的に描かれるのは良かった。

やはり重要なところでの視線は分かりやすく示される、視線は一致せず心は通い合わない。誓いの場面でも中々視線は合わない上、ヴェールという物理的な壁に遮られ気持ちのズレが現れる。コミュニケーションの不可能性は濱口作品において常についてまわるんじゃないか。

そして、タイトルがとても秀逸だと思う。なぜ【永遠に君を愛す“る”】ではなく、【永遠に君を愛す】なのか。ただただニュアンスの違いだろうが、そこには感情の源流の相違があると思う。【愛する】は自発的な感情のようだが、【愛す】だとそこに外的要因による義務感のようなニュアンスが生まれてる気がしないか。

なぜ“not the end”なのかは定かではないが、ラングの『死刑執行人もまた死す』やんけ!と思った、です。

2024,129本目(劇場45本目)シネ・ヌーヴォ
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