幽斎

特捜部Q 檻の中の女の幽斎のレビュー・感想・評価

特捜部Q 檻の中の女(2013年製作の映画)
4.4
未体験ゾーンの映画たちで鑑賞。4作目「特捜部Q カルテ番号64」公開中の特捜部Qシリーズ第1作。小説は4作品の次は「知りすぎたマルコ―」「吊された少女」1年前に発表された「自撮りする女たち」。正確にはミステリーと言うよりもハードボイルドですが、緻密な構成が高く評価されて、「ドラゴン・タトゥーの女」で火が付いた北欧ミステリーの牽引役としての功績は、原作ファンとしても嬉しい限り。

原作者Jussi Adler-Olsenは、デビュー作「アルファベット・ハウス」でエンタメ感溢れるサスペンスが素晴らしく、映画化された本作もデンマークで国民の8人に1人が観た大ヒットで、小説と同じ様にベールを1枚ずつ剥ぐような丁寧な描写が、日本でも受け入れられた理由だろう。ハリウッドを見慣れた方には緩い展開に映るだろうが、原作自体もサクサク進まないので同質化してる。

この作品の最大の特長は相方がイスラム教徒で有る点だ。これはミステリーの世界でも極めて珍しく、今のデンマーク自体はEUの中でも最も移民政策に反対してる国なので、小説が発表された2007年とは随分時代背景も違う。アサドを演じてるFares Faresも、レバノン系のスウェーデン人なので正に適役。ハリウッドでも白人とイスラム系の刑事ドラマが観て見たいものだと心の底から思う。主人公を演じるNikolaj Lie Kaasも悪役にしか見えないが(笑)「72時間」とは別人の存在感で画面を引き締める。

この2人に加え犯人までもが陰鬱で北欧の空と同じ様に重い。このシリーズの特徴でも有るが、犯人が完全に悪人かと言えばそうとは言い切れない。暗い中でも北欧らしい美しいシーンも有り、いつも見ている映画とのギャップ感がやがて癖に成る。この空気感はハリウッドでは絶対にリメイク出来ない(しちゃいけない)。

この作品がここまで日本で愛されるのは、小説の映像化として成功してるだけで無く、私達が日頃疎い欧州の本当の実情を映画から感じ取っているからだと思う。原作は非常に骨太で誠実な作品なのですが、その真摯な内容を味の有る俳優が見事に演じ切ってる。若干陰惨な描写も有りますが、観ないと損する大人の傑作ハードボイルド。先ずは本作から始めて下さい、お薦めです。
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