理央

はじまりへの旅の理央のネタバレレビュー・内容・結末

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ベンと彼の6人の子供たちは、文明を離れ山奥でほぼ自給自足の暮らしをしている。ベンはもちろん子どもたちも皆、狩りをし、武器を操り、体を鍛えて身を守る術を身に付けている。だからと言ってただの野蛮児というわけではなく、本を読み、複数の言語を操り、音楽を嗜みながら、教養をも備えていく子どもたち。何の疑いもなく、その生活を日々実践している。

そんなある日、入院すべく山を降りていたベンの妻レスリーの訃報が飛び込んできた。レスリーの父からその死の原因はおまえだと責められたベンは葬儀への出席を禁じられるが、レスリーの遺言を実現するべく、ベンと子どもたちは葬儀へと向かう。

この映画では、その道中での家族の絆と、それぞれの成長が描かれている。確かに普通じゃない家族、子育て。子どもたちは強く、賢明に育っている。しかし世間を知らない。ベンの子育ては間違っていたのか。
「普通って、なんだ?」


【感想】
子どもを育てている人や教育に携わっている人なら、「この育て方(教え方)でいいのか?」と悩んだことは数知れないと思う。自分の哲学(理想)と他者からの期待や常識(ある意味での現実)にどう折り合いをつけ、どんな環境を用意してやるか。子どもたちが身につけるべき素養とは何か。常識ってなんだろう。

ベンのやり方はずいぶんと偏っていたが、それでも、人を育てている人なら、自分のやり方を否定されたり疑ったりすることはあるだろうし、この映画の根本にあるテーマもそれだ。

子どもたちも、旅路でそれぞれに成長を見せるのだが、それ以上に変わっていくのは父親であるベンだ。そんな、強靭で聡明で、なおかつ危うい父親の役は、ヴィゴ・モーテンセンにぴったりだと思った。本当に、ヴィゴ以外には適役が思い浮かばない。
子どもたちもとても個性的で観ていて愛おしい。恐ろしいほどにしたたかで聡明で、それでも根は素直で純真で、そんな子どもたちを見ていると、ベンの子育ては間違っていたのか?とも思う。

それでもやはり、「普通でない」ことはリスクを伴うのだ。これだけ「多様性を認めること」の大切さが謳われるようになった今の社会ですら、だ。
そんなリスクに向き合って絆を深めた家族の姿に小さな希望が見出させる、とても良い作品だった。




ミーハーな感想をもう1つ述べるなら、ベンがレスリーに最後に語りかけるところが素敵過ぎました。元々おっさん好きな私にはたまらなかったです。
その後の弔いの歌がまた良いのなんの。あのためにサントラ買おうかどうか真剣に悩んでる。
理央

理央