emily

美しき獣のemilyのレビュー・感想・評価

美しき獣(2012年製作の映画)
2.7
アメリカ、コネチカット州の田舎の豪邸で暮らすヴァンパイアのジュナは常に動物の血を吸って生を保っていた。しかし脚本家のパオロに一目ぼれし、恋に落ちその気持ちを止めることはできず、彼の血を欲してしまう。パオロも同じ気持ちだった。彼はヴァンパイアのなる覚悟を決め、二人はヴァンパイアとして幸せな日々を過ごす。しかしジュナの妹でミミが現れ二人の生活も、つつましく生きてきたヴァンパイアの仲間たちの生活も乱していく。

ジョン・カサベテスの実娘ザン・カサベテスが描くヴァンパイアと人間の恋の行方を美しいタッチでゴシックワールドで描く官能サスペンス。

人間の血を吸わない草食系のヴァンパイア。冷たさとはかない美しさが交差し、夜の寒々しい景色にサスペンスをあおる音の効果で、世界観を表現している。
対照的な姉妹は、その表情からも性格がにじみ出ており、つつましく生きてきた姉の抑えてる欲求の糸は脆く、それをいじわるに操っていくように、侵入してくる妹にハラハラさせられる。

夜な夜な血を吸う音に効果音が重なり、逃げる足音に音が溶け込んでくる。音の効果を巧みに操り、暗闇の危うさの中の美を映し出し、欲望と理性の狭間の絶妙な心情をのせてくる。血を吸うシーン一つにしても、残酷の中の美が必ずあり、そのスタイリッシュな見せ方が素晴らしい。セックスのシーンの描写も生々しい露出はなく美的なアングルで神秘の枠づけで描写している。

妹の破壊力は全てか無かと言うぐらいに大きく、今まで守り続けたものを一気に片っ端から壊していく。彼女の暴走に翻弄され、眠っていた欲望がむき出しになると、ヴァンパイアなのにそこには生の通った人間らしい本能のままの姿があらわになり、ミミと同化していく。

朝焼けの映像もアングルを変えそのはかない美を堪能させ、現実へ落とし込む。最後まで美しいままでエンディングを迎え、スパイスがパラパラと降り注がれる。タイトルの名通り女性の視線ならではの美的センスで描かれた、細やかな危うさとスタイリッシュな映像に魅せられた。
emily

emily