ネズミツオ

エイリアン:コヴェナントのネズミツオのレビュー・感想・評価

エイリアン:コヴェナント(2017年製作の映画)
4.1
(※注意)ネタバレしています。

エイリアンの描写は1作目の完全セルフパロディに徹し、アンドロイド(マイケル・ファスベンダー)のストーリーを主軸にしたリドリー・スコット監督が強い関心を抱く人造人間の知られざる謎と恐怖を描いている。

1作目同様クレジットに象形文字を採用したり、ジェリー・ゴールドスミスの音楽を全編に渡って流し続けるなど、オリジンへの印象が相当強く、まるでデジャヴのような世界観が広がっているのは熱心なエイリアンファンには大変胸躍る演出の数々でした。微粒子から媒介し体内に侵入したエイリアンの素が急速に成長し、定石である「胸」ではなく、背中を食い破って誕生するシーンには意表を突かれました。これ正にスパイナルクラッカー(笑)

エンジニアが人類の創造主なら、アンドロイドは人間が造り上げた分身。ほぼクローンと言って良いほどの高機能を備え、人間の残酷な部分までも継承するとなると、リドリー・スコットが『ブレードランナー』で描いたレプリカントとの対立を想起させ、長らくSF映画のテーマになってきた人類対ロボットの反乱ヘリンクする辺りに人間の愚かさや傲慢さが全人類を滅亡させる悲劇に繋がるという流れが絶望的で目を瞑りたくなる。神(エンジニア)が人類の反乱を食い止めようと作り出したのがエイリアンだと解釈したのだが、神が生み出した人間のクローンが神を滅亡させるという自然界の掟を根底から覆す設定に打ちのめされる…。

ここまで展開させればエイリアンは刺身のつま程度の存在で構わない訳で、エイリアンの脅威が薄っぺらくなってしまったのも致し方ないのかも。とはいえ、長年描き続けて来た「純粋で、道徳心の欠片もなく、繁殖するためだけに生まれて来た完全生物」のエイリアンが平坦で生理的嫌悪感がまるで感じられないVFXで片付けられてしまっているのには正直落胆の色を隠せませんでした。バリエーションが豊富でもあの動きと質感はエイリアンじゃない。むしろ幼虫の方がレベル的に上だと思うし、エッグチェンバーが開口するシーンやフェイスハガーの生々しさ、この辺りは創造主リドリー・スコット監督の本領が発揮されていて嬉しかったですね。

クルーたちが皆若々しいのも本作の特徴でしょうか。とりわけ女性陣が美形揃いなのもシリーズ随一と言って良いかも。個人的に最初の方で退場してしまうファリス操縦士がとても魅力的に映りました。ノストロモ号は貨物船だけど、それよりも20数年前の出来事なのに宇宙船のシステムとかデザインに格差があり過ぎて時代設定が良く分からないのも頭を抱えたくなるひとつだったかも。。さり気なく水飲み鳥が置かれていたのにはニヤリとさせられました。

第一作のオマージュで語るならば、シャワー中に襲撃される男女はパーカーとランバートが死ぬシークエンスと同じシチュエーションだし、母船を「マザー」と呼称するのも「おふくろさん」と呼ぶノストロモ号の乗組員と同じですね。不慮の事故で焼死したコヴェナントクルーの遺体を繭のように包み船外へ放出する場面もケインが死んだ後の葬儀シーンと全く同じです(遺体が回転しなかったけれどw)
宇宙船切り離し時にモニタに表示される「PURGE」もしっかり再現していましたし。

酸性血液でただれた顔面に貼る未来版キズパワーパッドみたいな絆創膏が面白かった。あと、ホラー映画ではお約束なんだけど、床の血で滑りまくるシーンも楽しい!まぁ、何を差し置いてもファスファス劇場だったって事ですかね…。完璧なものほど詰まらないものはない。人には欠点がないとね。。

【2017年10月20日(金)】シネプレックス平塚で鑑賞。
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