櫻

山の音の櫻のレビュー・感想・評価

山の音(1954年製作の映画)
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成瀬監督はいつもどきりとする男女の一瞬を切り取るが、明確な善悪や裁きを描かない。

菊子が幸福そうに見えるのは義父と一緒にいる時だけで、他は虚な目でどこかわからない場所を見つめている。当の夫はそんな妻のことは放っておけばいい、と冷酷なまでに心配すらしない。そうして菊子は家庭に縛られ、少しずつ何かを諦めていく。嵐の日の消え入りそうな蝋燭の火、糸が切れやすい古いミシン、うすら怖さすら漂う子供の能面。それらはまるでこの家庭の崩壊を予期する象徴のようだった。義父と菊子の交わる視線があまりに色っぽくて唸った。
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