Azuという名のブシェミ夫人

彼は秘密の女ともだちのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

彼は秘密の女ともだち(2014年製作の映画)
4.3
亡くなってしまった無二の親友。
残された彼女の夫。
彼は、私の秘密の“女ともだち”になった。

フランソワ・オゾンの作品には繊細且つ淀まぬ濁りなき空気が広がっているのだけれど、いつもどこか息苦しさがある。
その息苦しさの所以を観終わった後に見つけようと試みるけど、それは透明で美しい水の中に存在しているようにハッキリと目に映りながらもどこか心許なく、落としどころをより確かに自分のものとしようと底へ手を伸ばせば、水面が揺らいでたちまち不確かなものとなってしまうのです。
それが病みつきなんですけどね。

揺らぐよ、性も心も。
“男”と“女”だけではどうしようにも判別できないくらいに。
果たして私が彼を好きなことに関して、彼が男であることはどの位必要のあることなのか。
『私は女で、あなたは男』だなんて、いちいち心の中で反芻したりしない。
人は親密になるにつれて、性がどうのこうのより“その人”を愛していくように思うのです。
だから、クレールとダヴィッド(ヴィルジニア)の間にある性や関係についても一定ではないのでしょうね。
互いにノンケであり、レズビアンであり、バイセクシュアルでもあるというか、性が二人の間でゆらゆらと揺らいで変化していく。
それを名称や理屈で説明づける必要など無く、きっと意味も成さないでしょう。

ロマン・デュリスがお見事。
所作がね、美しいんです。
最初は如何にも感のある大袈裟な所作なのだけれど、次第にしなやかになっていく様子がとても自然。
例え骨格がいかつかろうが、口周りが青々としてようが美しい。
立ち居振舞いというのは大事だなぁと改めて自分も意識しちゃう。
ショッピングシーン可愛かったな。こっちまでウキウキする。
そして、『あなたは男』だと言われた時のあの涙。
あぁ…そうなんだよ。
うん、ほんとそうなんだけどさ。
当たり前に聞こえるし、いや実際そうなんだけど、ひどく悲しかったよね。
ただ、そう言われてなんで悲しいんだろうって考えたら、やっぱりまだ固定観念に囚われていたからなのかなって今になって思うけれど。
ラストの彼(彼女)に『あなたは男』って言っても、『そうだったわね』とか軽やかに答えそうだし。

終わり方としてどうかはさておき、とても好きな作品でした。
フランソワ・オゾン作品の中では割と見易いんではないかと。
ちょっとしか出てこないけど少女時代の2人がめちゃくちゃ可愛いし、クレールの夫役ラファエル・ペルソナは相変わらずのイケメンなのでそちらも目の保養になりますよ。
是非に。