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ハニートラップ 大統領になり損ねた男のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 SEX依存症のフランス人政治家デヴェロー(ジェラール・ドパルデュー)は、ニューヨークの高級ホテルでコールガールたちと乱交騒ぎを起こした翌朝、「部屋の掃除中に、性行為を強要された」と主張する黒人客室係から訴訟を起こされた。手錠姿で連行される権力者のスキャンダルをマスコミは大々的に報道。本人だけは「誰かに仕組まれたワナだ! 」と反論する。フランスの政治家で次期大統領候補の呼び声も高かったドミニク・ストロス=カーンの前代未聞の一大スキャンダルを映画化した作品。ドミニク・ストロス=カーンという人物は本国フランスではあまりにも有名で、経済の専門家としてフランスでの地位を不動のものにし、市長を務めたのち、90年代に経済・財政・産業大臣を歴任。2007年のフランス大統領選挙では社会党の大統領候補として立候補し、惜しくも2位で落選したものの、2012年の大統領選挙でも有力候補の1人と目されていた人物である。その後一度政界を離れ、国際通貨基金 (IMF)の専務理事として、任期期間中にニューヨークで起こした性的暴行事件により逮捕・訴追される。

 前作『4:44 地球最期の日』が鈍重なショットの中で、ゆっくりと映画の中の時間が進行していたのに対し、この映画のショットの連なりは明らかにリズミカルでテンポが良い。動的なショットの連なりの中で、警察とドパルデューの飛行機に搭乗出来るか否かのスリリングなサスペンス展開は、一気に画面を高揚させる。冷静さを装いながらも、事態が呑み込めないドパルデューと、事務的に事件を処理しようとするアメリカの警察官の冷酷さとの対比も非常に上手い。その後600万ドル相当の保釈金で保釈が認められ、妻であるジャクリーン・ビセットが間借りした家賃600万ドルのアパートへ、マスコミの目から逃げるようにして駆け込むのだが、そこで繰り広げられる夫ドパルデューと妻ビセットの9分間の罵り合いが非常に素晴らしい。名優同士の魂のこもった演技を、引きの絵でじっくりと捉えた9分間の攻防のカタルシスは、観る者の心を捕らえて離さない。またもう一度出て来る夫婦の言い合いの場面の対比も実に効果的で上手い。夫婦同士の力関係が、ゆっくりと立場を変えてしまう。最初の攻防のように9分間尺を与えてのやりとりではないのだが、ある映画のスクリーンを媒介にして、夫婦の距離が絶望的に提示される。

 ここでドパルデューが心落ち着かせるために観ている映画には、あまりにも驚いた。ドパルデューにもジャクリーン・ビセットにも大変ゆかりのあるあの監督の作品である。アパートの窓越しに高層ビルを眺めながら、無宗教なのに自分の罪を懺悔する印象的な独白場面は、フェラーラの真骨頂となる。
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