せみ多論

アリスのままでのせみ多論のレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
3.6
主人公アリスは知性に溢れ家族にも恵まれ、充実した日々を送っていた。ところがふとしたことから発覚する病、若年性アルツハイマー。闘病も虚しく日毎進行していく症状、戦う彼女とその家族とを描いた物語。

作中であたくしに最も刺さった台詞「癌だったらよかった」彼女の心中は自分の考えるものと違うかもしれないが、この言葉だけは同感。

常日頃からあたくしぁ、最も残酷な病は認知症だと思っている。
癌だろうが難病であろうが、どれほどの痛みや苦しみがあっても、自分が生きてきたことや、自分の大切な人々の事を思い、抱えて死ねるんなら、まだ…と思う。
たとえ死ぬ間際に天涯孤独の無一文であっても、記憶だけは奪われず最後まで側にいてくれればいいと。
死ぬ直前に自分が自分であったことを思い返し、笑いたいし、泣きたいし、懐かしみたいし、後悔だってしてみたい。それは最後の最後になって自分だけにしか出来ないことじゃない。

だから認知症が、本人から生きてきた証を奪ってしまうのはあんまりに残酷だ、と思う。
認知症患者がどういった心境でいるのか、どれほどの記憶が残っているのか、それは周りにはわからない。
ただ、あたくしのような他人から見ても、それこそ自分が生まれてくる前から、長い年月寄り添ってきた相手が分からなくなってしまうなんてのは辛すぎる。本人は相手から自覚なく離れていってしまう、残された側は追いかけてすら行けない。

だからこの手の映画を観るとき常にそういうことで頭がいっぱいになってしまう。答えも分からないし、だからと言ってしょうがないよと思いたくはない。ただ残酷な病だ、とばかりであたくしの中身は進歩がない。情けない話だ。

そんなことで本作中身についてはノーコメント。ただ同様に、認知症を扱った映画としては『愛、アムール』の方が、痛烈だった。
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