うえびん

ボーダーラインのうえびんのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.0
境を越える

2015年 アメリカ作品

麻薬カルテルを潰すために、FBIの常識を捨て、超法規的措置の世界に足を踏み入れた女性捜査官ケイト。その心中の葛藤とアメリカとメキシコとの国境で繰り広げられる抗争、二つの“ボーダーライン(境界線)”が重ねて描かれる。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品。『灼熱の魂』と同様に、冒頭から作品の世界に没入させられる。戸惑いながら捜査チームに加わるケイト(エミリー・ブラント)。その緊迫感と臨場感がひしひしとヒリヒリと伝わってくる。謎のコロンビア人・アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)の怪しい雰囲気もいい。メキシコでの夜の突入、暗視カメラのシーンは圧巻。

終始重苦しいムード、最後は軽くなるのかと思ったけれど…。これはこれでよかった。麻薬戦争、メキシコの不法地帯、国境の壁、警察や公務員の買収…、本作のモチーフは現実なのか、それとも全くのフィクションなのかが気になった。

『左翼リベラルに破壊され続けるアメリカの現実』(やまたつ著)


「小学生の考えることじゃないか」
私がまだテレビ・新聞を信じきっていたころ、トランプ政権の国境の壁建設の報道を目にしたときの感想です。あれから4年の時が経った2020年夏。私の意見は180度ガラッと変わりました。自分で調べてみて初めて知る国境の壁の必要性・効果。テレビ・新聞で報じられていたものと実情はまったく違った。(中略)

 この国境問題・不法入国問題で、「トランプ前大統領は移民嫌いで、人道的対応をまったくしていない」という指摘をよく目にしますが、本当にその通りなのでしょうか?今のバイデン民主党政権、民主党支持者は無制限に南部国境から侵略してくる不法入国者たちを、“人道的理由”で受け入れています。(中略)

 バイデン政権誕生後にアメリカに大量の不法移民が押し寄せました。その数500万人超。2022年度の南部国境の不法入国逮捕者数は約2300万人で、アメリカの歴史上過去最多数を大幅に更新しました。(中略)2021年1月~2022年9月末までで約411万人が不法入国で逮捕されていて、逃走の100万人と合わせて、約510万人がアメリカに不法入国しようとして逮捕されている。これはアイルランドの人口とほぼ同じです。

 不法入国逮捕者数の歴代最高数を更新しているバイデン政権ですが、この411万人がひとり残らず純真無垢で、非の打ち所がない人物であれば、百歩どころか、百万歩譲っていいとしましょう。しかし、実態はまったく違い、不法移民問題で日本の報道で欠落していることです。不法入国者の中には、多くの危険人物が紛れ込んでいて、単なる人道問題ではなく、国家安全保障リスクに直結する話でもあります。

 殺人・強盗・暴行・強姦等の犯罪歴のある人物は南部国境で1.3万人、全土で見ると約4万人が発見されています。国境警備局の統計データによると、特に殺人・強姦による逮捕歴のある人物が急増しています。この犯罪は祖国で起こしたものだけでなく、アメリカで殺人や強姦をして強制送還されていたのに、性懲りもなく戻ってきているケースが多くあります。ギャング・カルテルのメンバーは750人逮捕されています。(中略)

 流入しているのは、危険人物だけではありません。薬物の流入も深刻な問題になっています。特にフェンタニルという麻薬です。麻酔・鎮痛剤として使用される合成オピオイドの一種で、ヘロインの50倍~100倍の効果があり、1錠500円程度で入手可能で、少量で過剰摂取を起こし死亡するケースが多発しているため社会問題化しています。バイデン政権発足時から問題視されていたのですが、状況はさらに悪化し、現在はアメリカの18~45歳の死因第1位が薬物の過剰摂取という事態になっているのです。(中略)

 バイデン民主党は不法入国者の無制限の受け入れを、「人道的な対応である」と主張しています。本当にそうなのでしょうか?国連の関連機関のひとつ国際移住機関は、「アメリカの南部国境は世界最悪である」と発表しています。報告によると、2021年の南アメリカ大陸や中央アメリカなどからアメリカに不法移民を試みた人の死亡・行方不明数が1238人に上り、そのうち728人はアメリカ・メキシコ間の国境での出来事。あくまでも、国際移住機関が把握している数ですから、実習は倍では済まないレベルで大幅に膨れ上がることが指摘されています。少なく見積もっての数字が728人で、単純計算で1日2人は命を落とすか行方不明になっていることになります。(中略)

 バイデン政権による南部国境の崩壊に不満をもつ連邦政府職員は多くいます。そのうちのひとりが『プロジェクト・ヴェリタス』に顔出しで内部告発をしています。彼の内部告発で明らかになったのは、アメリカ政府はカルテルやギャングメンバーのような危険人物をアメリカに合法的に入国させているということです。

 不法入国者は『国際犯罪組織監視リスト』に入っていないかのスクリーニングにかけられます。あたり前ですが、該当すれば入国を拒否するわけですが、ここに抜け道が設定されているというのです。国際犯罪組織監視リストに入っていたとしても、“Reasonable Fear(合理的恐怖)”カテゴリに認定されれば、監視リストから外されるという“人道的措置”が用意されています。つまり、合法的に危険人物がアメリカに滞在できるという信じられない制度が存在しているのです。


このようなことが現実に起きているとはにわかに信じがたいのだけれど、不法移民問題は、『フード・インク』でも取り上げられていた。北米自由貿易協定(NAFTA)によって、メキシコの農業が破壊され、仕事を求めたメキシコ移民が不法に巨大な食肉処理工場で働かされていた。アメリカの移民局は大企業と結託して、不法移民は黙認されていた。

日本の大手メディアでは、こういったアメリカの不法移民問題が報道されることは少なく、“不法”という言葉が“移民(入国)希望者”という言葉にすり替えられている。だから今起きている現実を知るためには、自分で情報を取りに行くしかない。

なぜ、国境に壁が必要なのか。

本作は、ボーダーライン(境界線)で起きている現実、国と国との境を越えること、その世界で個人の則を超えて生きることを考えさせてくれる。

原題はSicario(スペイン語)で、ヒットマンや暗殺者といった意味。これは日本語訳の方が断然いい。
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