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ボーダーラインのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.0
エミリー・ブラント主演と見せかけてベニチオ・デル・トロが主演の犯罪映画。

クワイエットプレイス観賞直後で彼女の銃を構える姿を見たくなったのと、次作の後悔直前予習を兼ねて観賞。

感想としては、なんでコレを劇場で観なかったんだと後悔する傑作でした。
ストーリーやキャラクターがどうとか以前に、映像のカッコよさと終始張りつめた緊張感がスゴい。

観終わって「いやあ大変な映画を観てしまったなあ」といい意味で脱力してしまう作品でした。

【1】映像
本作のいちばんの魅力は鮮やかな映像美。
どうやら撮影監督のロジャー・ディーキンスさんの力量が素晴らしいようです。
ヴィルヌーブ監督と共に翌年公開の『ブレードランナー2049』も担当した人。

舞台は犯罪の蔓延するメキシコの荒野だけれど、夜明けや夕暮れを映したカットがとにかく美しい。

赤や青、紫に輝く空の映像は、スターウォーズ帝国の逆襲のベスピンあたりのシーンや、ブラックパンサーの先祖たちの木のシーンなどを思い出すような色調。

印象に残るカットが多かったです。
ゴツくて黒いシボレーのミニバンが5台くらい連なって延々と走るトコもよかった。いつ爆破されて3台くらい吹っ飛ぶんだろうとドキドキしながらずっと見てて疲れた🚙🚙🚙
これは劇場で体験するべきだった。


<以下、ネタバレあり感想>

【2】キャラクター
■ケイト
エミリー・ブラント演じるケイトは、優秀な女戦闘員なのかと思わせて実は傍観者的な立ち位置だった。
何が起こるかわからない麻薬戦争の中心地では、FBIの捜査官であってもただの素人同然。

この地で何が起こっているのか/自分たちが何に巻き込まれているのか、彼女はまったく理解できていない。
その彼女を主人公として世界が描かれているので、同時に我々観客もまた、何が起こっているのかわからない状態でメキシコとの国境に連れていかれることになる。

最初、女主人公が無双するリアリティない展開になることを危惧していましたがまったくそんなことはありませんでした。
すばらしい設定。

■アレハンドロ
誤解を恐れずに言いますが、ベニチオ演じる彼が主人公でした。
形式的な主人公であるケイトの目を通して観客はこの世界に入っていき、終盤で一気に彼の物語にシフトする。
圧倒的な存在感と強い意思。

個人的にベニチオは『誘拐犯』での演技(というか立ち回り)が最高だと思っているのですが、本作は誘拐犯の彼が年を重ねて経験を積んだような迫力だった。

■マット
サノスことジョシュ・ブローリン演じるCIAの人。
なぜかサンダル。うさんくさい感じで、こいつ終盤で死ぬんだろうなあって思ってたけどそうはならなかった。

■レジー
ケイトの相棒の黒人捜査官。ブラックパンサーのウカビの人。
登場した瞬間「あっ!ウカビ!」って思った笑
今作ではいいヤツだった。ギャグ要員でもある。
お前ももっとケイトみたいに事態を重く受け止めろよ!って突っ込みたくなる幸せな人。

【3】演出
■FPSゲーム感
コールオブデューティやSWバトルフロントなどのいわゆるFPSのゲーム的な一人称視点で敵地に潜入していく映像が多用されていて熱かった。
オープニングで壁の中からアレを見せられることで、観客は「この世界ではどんなことでも起こるぞ...」っていう気持ちでスタートする。

その状態で、どこの物陰から敵が出現するかわからないドキドキ感で映像が進むので緊張感がヤバイ。
高速道路のくだりとかメキシコ恐ろしすぎ。

おそるおそる前進→部屋へ突入!誰もいない→「クリア!」の発声かっこいいたまらん。
暗視カメラの映像もドキドキした。

■子供の使い方
汚職警察官シルヴィオの息子(サッカーの子)、マフィアのディアスの娘たち(プールで泳ぐ)、麻薬王の息子たち(食事)と、
子供たちを都度入れてくることで、日常と殺人が背中合わせになっているこの恐ろしい世界をうまく描写していた。

■アクション
派手な爆破やスローモーションのような魅せる演出はなし。

殺るか殺られるかの世界で、相手が1mm動いたら次の瞬間には蜂の巣にされている、くらいのテンポ感で次々と人物が射殺されるのでハンパない緊迫感が終始維持されていてよかった。
劇場で観たらジュース飲むタイミングに苦労しそう。

■精神不安定演出
・冒頭の壁のアレ→屈強な捜査官たちが次々と嘔吐。
・だんだん混乱していくケイトのタバコ依存。
・銃を突き付けられた人間のかすかな手の震え
etc

登場人物の精神が不安定になる描写がいちいち細かくて、作品の緊張感アップに貢献していた。

【4】音楽
ブレードランナー2049同様、低音のブゥウウウーンっていうBGM?が緊張感を煽る。
ハエ?の飛び回るようなブンブン音もいい意味で気持ちをいらつかせる。

【5】減点ポイント
■終盤
終盤の転換でなんだか少し肩すかしをくらってしまったというのが正直なところ。
主人公の実質的転換はまあいいとして、最後彼が彼女の家に行く必然性はあったのだろうか。
なんかモヤモヤしたまま終わってしまった。

■悪役
ディアスっていうボスと麻薬王をわけた意味がよくわからなかった。
マフィアの本当の大物は表に出てこないっていうことを示したかったのだろうか??

あの展開だったら、序盤か中盤で麻薬王をそれとわからないようにチラ見せしておいてもよかったんじゃないか。
サッカー少年のほほえましいエピソードとからませるなり。

【6】邦題
洋画って日本で公開される際にけっこう改題されますよね。
で、割と不評であることが多い。
『 GotG vol.2 』→『ガーディアンズオブギャラクシー:リミックス』
『 Thor:Ragnarok 』→『マイティ・ソー バトルロイヤル』
『 Jurassic World:Fallen Kingdom 』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
などは記憶に新しいところ。

でも、本作の『Sicario(殺し屋)』→『ボーダーライン』は秀逸だと思います。
・アメリカは普通の国だけど国境超えたらメキシコはやべえっていう世界観
・善悪の境界線はどこにあるのか?正義とは?っていう主題
・メキシコでは普通の人々の日常と恐るべき地獄の境目が紙一重であること
の3つを一言で見事に言い表している。

【スコア】
★4.0ですね。これはおすすめできます。
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