れおん

ボーダーラインのれおんのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
5.0
「その善悪に境界はあるのか…」アメリカとメキシコの国境で今もなお日常的にカルテルによる麻薬戦争が続いている。マット率いる米国防総省の精鋭部隊がFBIの特殊捜査官である、ケイトを麻薬組織殲滅の極秘任務に協力を要請する。なぜ、FBIの彼女が引っ張られたのか。そして、精鋭部隊に加わる謎の男、アレハンドロとは何者なのか…
21世紀最高峰の映画の中の映画。脚本・構成、映像・編集、音楽、役者・演出。全てにおいて、それぞれの分野の天才たちが手掛けるこの作品に勝る"映画"は存在しない。
監督は「メッセージ」「ブレードランナー2049」ドゥニ・ビルヌーブ。彼の作る映像作品は無限に"時間"を使う。そして、映像作品に花を咲かせるセンスがとてつもない。「ショーシャンクの空に」「007スカイフォール」のロジャー・ディーキンス撮影。今年公開「ウインド・リバー」脚本、テイラー・シェリダン。最後にヨハン・ヨハンソン。彼の生み出す"音"は観客の心を震わせ、映像に臨場感を添える。印象的なその"音"は耳を離れることがない。もう彼の奏でる音を聞けないのは非常に残念である。
正義とは何か。彼女の信念が揺らぐ。マットの精鋭部隊が躊躇なく、人々の命を奪っていき、仲間である彼女自身にも作戦の内容を全て話さない。目の当たりにする現実。選択の余地がない状況。最後に彼女が辿り着く果てとは。無言のまま、彼女は涙を流す。
ベニチオ・デル・トロとジョシュ・ブローリンの変わらぬ表情と凄まじい殺気の中、吐き出すセリフ。エミリー・ブラントの強い眼差しから感じ取れる、受け入れられない現実に押し潰される心と彼女の心の中で燃え続ける信念。役者と製作陣の想いが綺麗に融合されている。
1人を殺したら殺人鬼。100人、1000人殺したら英雄。国のため、国民のため。より多くの人を救うため、犠牲の上で受け入れられる正義があるのか。サッカーをして楽しむ子供達のすぐそばで鳴り響く銃声。最後の3分間に込められた"メッセージ"は儚く、胸に永遠と刻まれる。
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