ミーミミ

老人と海のミーミミのレビュー・感想・評価

老人と海(1999年製作の映画)
4.0
学生のとき、課題図書にヘミングウェイの『老人と海』があった。

そのときのわたしは
その本の良さがよくわからなく

感想文に「主役のお爺さんに感情移入が出来ませんでした」と書いて提出した。

先生は
「では、もう少し貴方が歳を重ねたときに手に取ってみてください。また違う感じ方をするかも知れないですから」と書き添えて返却してくれた。

検索でこの映画を見つけたとき、その時のことを思い出し、懐かしくなった。

この映画は
ロシアとカナダと日本の合作らしい。

21分の短編で

2万9千枚ものガラス板に描かれた油絵を描いては消しを重ねて、莫大な労力の末にできたそう。

その映像はなんとも幻想的で
また力強さに溢れている。

映像表現の教科書にもなりそう

https://youtu.be/TvK-Bjzm3AQ
ご参考まで。



以下ネタバレ有りですのでお気をつけて〜






サンチャゴはかっては屈強な負け知らずの海の男でした。

しかし、そんなサンチャゴにも「老い」は訪れます。

現在84日間、なにも釣れていません。

5歳から仕込んだ弟子マノーリンも同乗していましたが、41日目には親の言い付けで別の船に鞍替えさせられました。

それ以来44日のあいだ、ひとりで海に漕ぎだす毎日です。

サンチャゴはマノーリンが降りてから、独り言が多くなりました。

サンチャゴは言います。
「運はいろんな形をして現れる。
 とすれば どうしてそれがわかる?」

そうなのです。
運はいつ訪れるかは誰にもわからないのです。

ならば…
サンチャゴは思います。
待つしか無い!闘いながら!

いいときは永くは続かない。
運に見放される日は必ずある。

その日も…サンチャゴは
『とにかく新しい日なんだ』と
昨日までの不運を切り離して
漁に向かいます。


さてサンチャゴは何故、海に出るのでしょうか?

それは海が沢山の生命をかかえる場所だからです。

そこには自由に飛翔する海鳥たちも、
水面を力強くバウンドするトビウオたちも
そして海の王者のカジキマグロも
厳しい自然と闘いながら悠々と生きています。

そんな生命たちにサンチャゴは畏怖の念を抱いています。

そして、そこに挑んでいく喜びを。

サンチャゴはいつもより沖に出ることにしました。

新しい漁場。

ー長い死闘の始まりですー


人は本来、孤独です。
ひとりで向き合うしか無いときがあります。

独り言は、自分と向き合う作業。
サンチャゴは、カジキマグロとの死闘のなか、独り言で自分を鼓舞します。

『人間は負けるようには造られていないんだ!』

5メートルの船よりも大きなカジキマグロです。

その怪物と五角に渡りあえている躍動!


サンチャゴには強さへの憧れがありました。
かつて船乗りをしていた少年だったころ
訪れたアフリカの地で、マストから海越しに崖に立つライオンを見たのです。

そのライオンは威厳に満ちていました…



いまやサンチャゴは
『俺たちは今ふたりっきりだ』とカジキマグロに話しかけます。

糸の先とこちらで繋がるうちに、まるで同士のような心持ちです。

丸3日の格闘の末、サンチャゴは
カジキマグロにモリの一撃を放ちます。

見事に命中!闘いに勝利!
船には載せられないので、舟の横に並べて結えつけ、帰港します。

しかし喜びも束の間、獲物の傷から流れでる血のにおいを嗅ぎつけたサメの群れに取り囲まれ、命の危機に晒されます。

しかしサンチャゴは諦めません。

あらゆる武器を総動員してサメと闘います。

闘うことを辞めないサンチャゴ。

『殺されることはあっても負けることはないんだ。
 戦った先の死なら負けではない』

サンチャゴは身体こそボロボロになって帰ってきましたが、
心は充足感に満ち溢れています。

闘いを終えたあとの眠りは格別でしょう。

その夢はもちろん、ライオンの夢です。




そして
この死闘はサンチャゴにある変化をもたらします。

ひとは独りを知り、初めて人を求めるのです。

なん度となく『おまえがいればなぁ』とサンチャゴは弟子のマノーリンのことを想います。

『こんなに沖に出なければ良かったよ。ごめんよ』とも。

この出来事はサンチャゴを素直にもしたのかも知れません。

帰ってきたサンチャゴをマノーリンは羨望の眼差しで迎えます。

また一緒に船に載せて!とも。

ワシは運がないから辞めておけ、というサンチャゴに

『運がなんだい!
 運なんて僕が持ってくるよ』

とマノーリンは力強い言葉を伝えます。


サンチャゴは人生がなんたるかを身を持ってこの若者に見せることができました。

これからは、マノーリンの若さに助けてもらいながら、

サンチャゴもまだまだ海に出ることでしょう。

この物語の深いところはこの継承までも描いているところです。
ミーミミ

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