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ネオン・デーモンのMikiMickleのレビュー・感想・評価

ネオン・デーモン(2016年製作の映画)
3.9
16歳のジェシーは19歳と偽り、モデルを目指しLAへ。
若くウブでピュアで、両親を亡くした悲しさも持つ彼女は、様々なクリエイターから興味を持たれ、瞬く間に人気のモデルになっていく。しかし、激しい生存競争のモデル業界。彼女の出現によって職を失い、自分の美が認められなくなったライバルたちは、ジェシーに復讐をしかける。しかし、うぶであったジェシーもまた、美にとりつかれた悪魔の業界に染まっていた…


オープニングから、レフン監督特有の不穏な重低音の電子音と、赤青を基調とした怪しげな色使いと、左右対称の画、平面的な構図に来たぁ~‼と、ときめく‼
ソファーに横たわり、“死”のポーズをとる美しいジェシー。全てを示唆するような、永遠の美。

レフン監督は、色と空間と音の使い方が本当に素晴らしい。
青と赤を基調とするが、今回は「白」と「黒」もまた印象的に使われていた。ヴィンチェンゾ・ナタリの『nothing』かとも思った真っ白なシーンでは、モデル業界への洗礼とそこへと羽ばたく無垢な鳥のようなイメージを受けた。
黒と三角のシーンでは、悪魔の領土へと踏み出すような。三角は3人の魔女を表していると思うし、それに囲まれながらネオン煌めく世界へと進むジェシーはこの後の事を比喩していると思う。
青から赤紫に変わる幻想的でドラッギーなシーンでは、そこを分岐点とし、人気者になったジェシーの態度も色調も一気に変わっていく。
それは単に色が雰囲気や人格を象徴するだけではない。単純なインパクトだけではない。脳裏に直接的に響くのだ。
レフン監督の作品は、時にリンチやヒッチコックにも近いところがあるし、「悪魔のいけにえ」やホドロフスキーを敬愛しているのもよくわかる。視覚的カオスと言うのか……
山猫が登場するシーンもまたこれからの事を揶揄するかのようだ。

レフン監督は、映像で魅せるものは何かのかをきちんとわかっている人だと思う。
例えばストーリー的にはB級ホラーであるようなものだとしても、彼の手にかかると全然違ったものになる。
それは、アーティスティックな自己満足のものではない独自の魅力がある。
想像力を刺激し、その世界に陶酔する。
いわば、ドラッグのような感覚……
レフン監督は色盲であり、ビビッドな色しか判別出来ないらしい。そこもあるからこそ、彼の世界なのだと思う。

ストーリーでは、周りの嫉妬の中、ジェシーもまた闇の世界へと飲み込まれ、闇の本性を表していくのだが、『ブラックスワン』的なものになるかと思っていた。ショービジネスの栄光と衰退、嫉妬的な部分で。が、まさかの衝撃の展開に‼

美の賞味期限の短いモデル業界の恐怖心というものが、ダイレクトに映像としての“恐怖”として表される。じわりじわりと表面下でじっくりみせてきた“恐怖”がしっかりとあるので、そういった精神的な怖さと、映像的な怖さが見事にリンクし、衝撃的な形で表現される。

主演のジェシー役のエル・ファニングの、田舎くささのある顔からの変貌は素晴らしいものだった。正直、100%の美とは言えない。が、このキャスティングはかなり良かった。ピュアから悪魔の業界に心を売る変貌、しかし、常に真横にある恐怖…

脇役も素晴らしい。普段は死体のメイクをしているルビー(ジェナ・マローン)。ジェシーのメイクを担当してから、彼女の魅力にとりつかれ、内なる欲望が開花されていく。嫉妬と欲望と拒絶からの渇望と支配と、それによるある行動…彼女の存在はこの映画には欠かせない。ずっと美の横にいた彼女の倒錯的な愛は歪みそのもの

ライバルのジジ(ベラ・ヒースコート 「高慢と偏見とゾンビ」では知的で美しい長女役)と、サラ(アビー・リー トップモデルであり、「マッドマックス FR 」ではイモータンに囚われの身のワイブズの一人、真っ白なザ・ダグ)も、己の自尊心の崩壊と、狂気の世界へと。

また、キアヌ・リーブスも、ジェシーの感じる恐怖としての象徴のひとつとして出演。トップ俳優でありながら、脇役でも恐ろしくクセのある異常な役を演じるキアヌはやはり素晴らしい。気持ち悪さとLAという街の欲望と闇の象徴でもあった。

映像の色の洪水、響く不穏の重低音。きらびやかで光輝く“偽の”世界と、その裏の、“真の”カオス、闇。追い求める永遠の美、完全な美。渇望、終わりのない欲望。倒錯する愛、嫉妬。歪み。陰鬱で狂気の世界。

そんな映画
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