黒田隆憲

トゥルー・ストーリーの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

トゥルー・ストーリー(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ライターをやっている自分にとっては身につまされるような話。特に序盤でジョナ・ヒル演じる記者マイケル・フィンケルが、ニューヨーク・タイムズを解雇されるシーン。彼は「真実」をよりセンセーショナルに伝えるため、「事実」をねじ曲げて記事を作ってしまうのだが、これってどこまでが「演出」でどこからが「捏造」なのか、実際に取材したり記事を書いたりしているとかなり微妙だったりする。

もちろん、本作でフィンケルが行ったことは明らかに捏造だし、しかも記事の内容が某団体を告発・非難するものだったから、よりファクトチェックは厳密になされるべきだった。が、例えば見出しやタイトルの付け方、時系列の整理、言い回しのニュアンスなど、記事を作成・編集していく過程で多かれ少なかれ「演出」が入るのは避けようがない。本作の中盤で、ジェームズ・フランコ演じる容疑者クリスティアン・ロンゴが「ジャーナリストは読者が読みたい記事を書くだけで、事件の真相については無関心だ」と語るシーンがあるが、冒頭でも述べたように「演出」と「捏造」の違いが分からなくなると(あるいは意図的に混同させると)、あっという間にこの「罠」に落ちてしまうのだな、と我が身に置き換え身震いした。

ニューヨーク・タイムズを解雇されジャーナリストとしてのアイデンティティを失ったフィンケルは、自分のことを崇拝している容疑者ロンゴに魅せられ接見を重ねる。ロンゴの語るセンセーショナルな「冤罪ストーリー」を、一冊の本にすることで汚名挽回を狙うフィンケル。崇拝していたジャーナリストから関心を寄せられ、執筆の指南まで受けることで承認欲求を満たすロンゴ。お互いがお互いを「利用」し合う関係の中、フィンケルは再び「事実」と「真実」の境界線を見失っていく。結局人は、信じたいものを信じようとしてしまう。事実と向き合うことの難しさを改めて思い知らされた映画だった。

『ローグワン』で大注目を浴びる前のフェリシティ・ジョーンズが、フィンケルの彼女役で出演している。「ジャーナリストとしてのアイデンティティを失った」って、あんな可愛い彼女が無職になっても献身的にサポートしてくれるならいいだろ別に! と思ってしまったのは「事実」です。
黒田隆憲

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