MasaichiYaguchi

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
この作品を観るまでエイブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言するよりも早く、白人と黒人が平等に暮らす“ユートピア”を作ろうとした実在の人物、ニュートン・ナイトのことを知らなかった。
本作では、主人公の自由と平等を勝ち取る為の戦いを中心に、もう一人の“ナイト”の戦いが並行して描かれていく。
映画は、激しい南北戦争の最中、徴兵された甥の戦死で南軍から脱走し、故郷ミシシッピ州ジョーンズ郡で南軍が農民から食糧を強奪する理不尽さに怒り、反旗を翻していく様をドラマチックに描いていく。
そして85年後にニュートン・ナイトの子孫デイヴィス・ナイトがミシシッピ州最高裁判所でこの高祖父に関連した裁判で争っていく。
現代からすれば言掛りとしか思えない馬鹿げた裁判なのだが、1950年代まではアメリカで普通に裁判沙汰になったようだ。
2人の“ナイト”の戦いの根幹にあるのは人種差別。
リンカーンが奴隷解放宣言をしても、ジム・クロウ法が1964年に廃止されても、そして先日任期が終了したが、バラク・オバマが大統領になった現代においても、雑草のようにアメリカには人種差別が根強くある。
だからハリウッドは人種差別をテーマに、それと戦う主人公を描く映画を製作し続けているのだと思う。
この作品で特筆すべきなのは、富裕層ではないにしても、妻子持ちの白人男性が虐げられた黒人奴隷に手を差し伸べ、同じ人間として扱い、共に社会の不平等や理不尽と戦って自由な社会を築こうとした歴史的事実を描いたことにある。
そして85年後に係争中のデイヴィス・ナイトは、高祖父が貫いた信義と誇りを胸に、その魂を引き継いでいく。
アメリカでの“差別”をテーマにした本作だが、格差社会にいる我々にも決して無縁な内容ではないと思う。
社会が根強く持つ偏見や差別、その趨勢に押し流されがちの私たちだが、この作品は本当に正しいこと、大切なことは何かを考えさせてくれます。