山岡

愛と平成の色男の山岡のレビュー・感想・評価

愛と平成の色男(1989年製作の映画)
4.0
石田純一主演のカルトアーバン映画。

昼は歯医者、夜はサックスプレーヤー…本当か嘘か分からないが不眠症に悩まされており、自分を元気にさせ寝かせてくれる女性と出会いたいという。持ち前のトーク力とお洒落な佇まいで女性を口説き、惚れさせては、飽きて、また別の女性を口説く…これの繰り返し。かなり見る人を選ぶ映画だと思うが、僕はかなり好きだ。

まず、こんなふざけた内容なのに、画がバッチリ決まり過ぎているのが良い。バブルやトレンディ文化の代表とされるホイチョイプロダクションの映画は、今見ると意外にも昭和の日本の臭いが色濃く刻まれており、鈍臭い印象を受けるが、本作は美術、ファッション、カメラアングル、編集のテンポなどどれも森田印のクオリティで、今見ても十分にお洒落に感じることができる。

そしてなんといっても石田純一が素晴らしい。とても上手い演技とは言えないが、ナチュラル過ぎない台詞回しが空虚で絵空事のような世界観にマッチしているし、図らずも時代を超えた魅力を放っているように思える。そもそも主人公の長島のキャラクターは石田純一自身を濃縮したような、石田純一よりも石田純一らしさを感じる存在。合わないはずがない。次々と繰り出される、ジェームズ・ボンド顔負けの色男然とした言動の数々…石田の喋りとお洒落な映像が決まれば決まるほど、本作独特の面白さが生み出されていく…。

共演する女優陣もそれぞれ魅力的。金持ちの石田純一に振り回される馬鹿な女ではなく、それぞれを自立した1人の人間として描いているので不思議と感じ悪い気がしないのだ。

ひたすらカッコつけるのではなく、普通に笑える妙なシーンがいっぱいあるのも良い。真っ暗な財前直美の部屋を明るくするため、深夜のコンビニに電球を買いに行く石田純一。お店から早く帰ってきたら彼女が驚くだろうと謎に全力疾走する。コンビニでは何故か電球が冷蔵庫の中でビールと一緒に冷やされている…。妹の鈴木保奈美が住むトレンディが行き過ぎて不気味な部屋も面白い。和風な家具と無機質なトレンディ要素をミックスさせた鈴木京香の部屋もなかなか面白かった。そして何より不思議なのがラスト。結婚を迫る鈴木京香から逃れるため仕事の都合でバングラデシュに移住すると嘘をつき、別れるが、実はグアムに旅行に行くだけというオチ。この嘘も意味不明だが、グアムに行く交通手段がヘリコプターというのはどんな意図があったのだろうか…。

本作は田中康夫の『なんとなく、クリスタル』のような行き過ぎた消費文化へのストレートな批判的視点は見受けられないが、ツッコミのないコメディ作品であるという本作のあり様それ自体が十分に批評的に機能していると思う。
山岡

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