YAJ

ブルックリンのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

ブルックリン(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【Brooklyn】

 美しい上京物語。アイルランドからNYへ上京し、自分の力で未来を掴もうとする女性が主人公。

 故郷の小さな町では出来のよい姉と較べられパッとしない存在の妹。心機一転の新天地でも、社交性のなさや、都会でやってくだけの卒のなさや機転も利かず、ホームシックなったり落ち込んだりと、恐らく多くの人が経験するであろう身の丈レベルの悩みと葛藤が描かれる。

 その後は彼女なりに努力し、自信も付け、恋にも落ち、見違えるほどに洗練されていく。やがて故郷と都会、生涯の伴侶、二者択一を迫られる人生の選択を描いたお話。



(ネタバレ含む)



 観る年代によって評価が分かれそうな作品だなと思った。若い世代はきっと主人公エイリシュの恵まれた状況が許せない(羨ましい!)と見るのだろな。もう少し年代が行くと「あぁ、感情に流されちゃって」と、冷静に打算的な人生の選択もあったんじゃないの?とちょっとオメデタすぎるエンディングに鼻白む向きもあろうかと。
 これが”人生の酸いも甘いもツマミ喰いしてきた”年代ともなると、「いい!それでいい!」と目に涙しながら観れてしまうから、あぁ映画って面白い(笑)

 ストーリーは極めて単純。それだけに脚本が作品の出来を左右するのだが、これが超合格! 抑制され気の利いた台詞回し、些細な伏線が後から効いてくる演出は巧いね。大げさな大どんでん返しもなく予定調和な向きもなきにしもあらずなんだけど、穏やかな川の流れに身を任せ安心して見ていられる(備忘;脚本Nick Hornbyは『私に会うまでの1600キロ』も)。

 1950年代アメリカ。日本なら戦後復興、高度経済成長の頃という時代背景もよい。映画『キャロル』と同時代の、オシャレでハイソな古き良き時代が華麗に描かれていた。当時のアイルランド人の生き様を垣間見せ、昨今話題の移民問題も考えさせられる点も時代だ。

 卑近な例だけど上京、成長、自立ということで『魔女の宅急便』を彷彿させるし、やがて恋に落ちた二人がこのブルックリンで年老いたら『眺めのいい部屋売ります』のダイアン・キートンとモーガン・フリーマンのように幸せな人生を全うして欲しいなと思わせる街並み、時代背景と舞台設定も申し分なく美しい。

 そんな恵まれた設定で、あとは役者の力量がいかに発揮されるか!?ってところが肝。
 主演のシアーシャ・ローナンはもちろん合格点。実に地味な容姿顔立ちが時代に溶け込んでいた。野暮ったいところが『タイタニック』の頃のケイト・ウィンスレットのようだなと思って観ていたが、後でフライヤを見ると奇しくもケイト自身が「これからはシアーシャの時代」的なことを語っていた。この映画では、まだまだ垢抜けなさが拭えないけど、将来もっと大きく羽ばたいてほしいなと思えた女優さんでした。

 個人的には、恋人役のトニーを演じたエモリー・コーエンが買い。パンフや公式サイトの扱い、これまでのキャリアもまだまだパッとしない感じだけど、ブラットパック時代のエミリオ・エステベスや、『アンタッチャブル』に出てた頃のアンディ・ガルシアを思い出す。役柄的にも純朴で生真面目で、奥手なイタリア人の若者を好演。判官贔屓しまくりたくなるキャラ全開で、この映画の結末、主人公エイリッシュの選んだ道の正誤は、今後の彼の活躍次第じゃないかと思えるほど(映画の中の世界と現実をごっちゃにし過ぎ!)、感情移入しまくりキャラでした。大好きです、こういう役者さん。

 惜しむらくは音楽! こんなシャレた映画なのに印象的な曲が一つもなかった。1曲でいいから心に残るメロディがあれば、『St.エルモスファイヤ』や『ボディガード』のように繰り返し観る映画(個人的にね)になった可能性大なのに。惜しい!モリコーネとは言わん、もうちょっといい音楽を付けて欲しかった。。。。 

が、アメリカ人は50年代のダンス音楽なんかが懐かしく耳に残って心地良かったりもしてるのかな。
X'masのシーンでアイリッシュの男性がアカペラで歌った(恐らく)故郷の民謡はアイルランドにルーツを持つ人には響いたんだろうなとは思うが。
 もう一度観る機会があれば、BGMにも耳を澄ましてみよう。
YAJ

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