映画太郎

エール!の映画太郎のレビュー・感想・評価

エール!(2014年製作の映画)
5.0
「コーダ あいのうた」は素晴らしい映画だ。
でも、その前にはっきりしておかなければならないことがある。

「聾唖者(ろうあしゃ)」という言葉は差別的な意味を含んでいるなどのため現在は使われていない。「聴覚障害者」とは医学的・法的な言葉だが、「障害者」という部分に抵抗を感じる人もいる。こうしたことから、現在では「ろう者」または「ろう」という言葉が一般的となっている。
ここでは、「聴覚障害者」=「ろう者」、「健常者・健聴者」=「聴者」と表現する。


「コーダ あいのうた」は素晴らしいと映画だ。
ろう者を扱っているが、根本的に家族と子供の成長をポジティブに描いている。天真爛漫な子供を力一杯抱きしめたくなるような映画だ。

原作となっている「エール!」も素晴らしい映画だ。「コーダ あいのうた」は漁業を営む家族だが、こちら酪農家になっている。父親は選挙に立候補して、兄ではなく弟がいる。それ以外はほとんど同じだと言っていい。

障害者をエンターテイメントで描く時、腫れ物を扱うような空気になってしまう場合があるが、本作は劇中で語られるように「耳が聞こえないだけだから大丈夫」というスタンスなのだ。小さな街で、周りの人々は何も気にしていないし、発言(手話として訳される)も尊重されるし、それに下品だ。だからコミュニケーションの行き違いをコメディーとして笑って観ていられる。

ところが、言葉の行き違いをコミカルに楽しんでいるところに、あるシーンが訪れる。合唱部の発表会で完全に無音になるシーンがあるのだ。そこで家族がいる世界を思い知って愕然とする。家族にはステージで歌う娘の歌声は聞こえない。周りを見て何が起きているのか想像する事しかできない。

それでも父親は娘の歌声を、どんな形であっても理解したいのだ。

「コーダ あいのうた」は、第79回ゴールデングローブ賞ドラマ映画賞と映画助演男優賞にノミネート、第94回アカデミー賞では作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門でノミネートされ、全てで受賞を果たした。サンダンス映画祭でAppleは映画祭史上最高額となる2,500万ドルでこの映画の配給権を獲得した。

原作となる「エール!(原題:La Famille Bélier(ベリエ家)」は、2014年に、フランス・ベルギー合作で制作され、第40回セザール賞で6部門にノミネートされ、ルアーヌ エメラが女優賞を受賞。マグリット賞で最優秀外国映画部門を受賞している。ヨーロッパでの評価は高かった。
しかし、ろう者の役を聴者が演じているという点で批判の声もあがった。これはリアリティーに欠けるだけではなく、ろう者の役者の仕事を聴者が奪ったということでもある。

「コーダ あいのうた」ではこの点を解決するため、監督のシアン・ヘダーはASL(American Sign Language:アメリカ手話)を学び、脚本の40%程をASLで書き、ろう者の役は全てろう者の役者をキャスティングした。撮影にはASL通訳者や聴覚障害者コミュニティの協力を得ている。また、家族の中で唯一の聴者で末娘を演じたエミリア・ジョーンズは、撮影前の9ヶ月間ボイスレッスンとASLのレッスンを受けた。

「コーダ あいのうた」はこうした、ろう者への配慮によって、CODAやろう者の観客にも受け入れられる作品になったが、残念なことに日本語字幕の配慮のなさを指摘されている。バリアフリー字幕版という上映も行われ、セリフと同時に話者名が表記され、重要な意味を持つ音楽や効果音などの情報も可能な限り文字で表されるというものだが、それ以前の問題だったようだ。

「コーダ あいのものがたり」には、もうひとつ残念がところがある。セクシャルなシーンがあるためPG12のレイティングに指定されている。つまり「12歳未満の年少者の観覧には、親または保護者の助言・指導を必要」となっている(観覧禁止ではない)のは残念なところだ。「エール!」は鑑賞制限なしとなっている。

もうひとつ、CODAとは「Children of Deaf Adults」の略称で、耳が聞こえない親の元で育つ子供を意味している。国内外にいくつものCODA関連団体が存在していて家族をサポートしているが、「コーダ あいのうた」ではその説明はない。「CODA」という言葉を周知する意味でも、少しの説明はあってもよかったかもしれない。


「最強のふたり」で全品麻痺の大富豪が体験した束の間の開放感を観た。筋萎縮性側索硬化症で余命2年を宣告されたスティーヴン・ホーキングの物語を観た「博士と彼女のセオリー」。「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」では「自閉症」にも様々な状態がある事や、脱北者が差別されている事を知った。そうした映画はたくさんある。でも感動するために存在するとは思いたくない。少しでも「知られる」事が重要なんだと思う。


このレビューは「コーダ あいのものがたり」と「エール!」の両方に、このまま投稿する。「コーダ あいのものがたり」は「エール!」がなければ生まれなかったし、どちらも素晴らし映画だと思う。


理解が深まる日本のCODAやろう者の動画

コーダtv(関連情報も提供している)
映画「コーダ あいのうたの感想をコーダ当事者が語ります
https://youtu.be/tOkmCxtSz54 via @YouTube
耳が聞こえない両親と映画「コーダ あいのうた」の感想を話しました
https://youtu.be/4hJW1OoZEAs via @YouTube

コーダゆりこ
コーダあるある!?あれは許せない!? 映画「コーダ あいのうた」
【前編】 https://youtu.be/YMWH4CklAu4 via @YouTube
【後編】 https://youtu.be/SYra6GfMko8 via @YouTube
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