このレビューはネタバレを含みます
本作を観ると、『コーダ あいのうた』における脚色と、シアン・へダーの演出が如何に洗練されていたのかがよくわかる。ただ、だからといって本作に価値が無いわけではもちろんなく、このいなたい小品といった軽い味わいもこれはこれで嫌いじゃない。
『コーダ』に比べると、全体的に実直でストレートな表現が多い印象で、それはクライマックスの歌唱試験で主人公のポーラが歌う楽曲に顕著。この「青春の翼」はミシェル・サルドゥというフランスの代表的シャンソン歌手による“旅立ち”をテーマとした曲で、「ねぇ パパとママ 僕は行くよ 旅立つんだ 今夜/逃げるんじゃない 飛び立つんだ」という歌詞を通して家族への愛と訣別を力強く歌い上げるポーラの姿には目頭が熱くなる。
また、ラストカットは家族との別れを惜しみつつ未来へ向かって走り始めたポーラのストップモーションという、青春映画としてはクリシェ寸前のベッタベタ王道演出なのだが、この清らかな余韻も本作に関しては大きな魅力だと思う。