シズヲ

ソング・オブ・ザ・シー 海のうたのシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
アイルランドの神話を題材に、人間と妖精セルキーの間に生まれた兄妹の冒険を描いた欧州産アニメーション映画。監督がジブリ作品から多大な影響を受けた人物らしく、キャラクターの造形や場面の構図など様々な点でオマージュを捧げているとのこと。とはいえ現地の民間伝承にもジブリにもあんまり詳しくないので、細部まで読み取れなかったのはちょっと悔しい。

絵本を思わせる平面的なタッチの映像が実に味わい深く、キャラクターや背景などのデフォルメが効いた画風からは素朴な暖かみが感じられる。それと同時に町並みや夜の海、洞窟の中など、全編を通して色彩の明度を抑えたような仄暗さが目立っているのも印象的。このへんの静謐さにもシックな魅力があるし、カラーリングの薄暗さが強調されているからこそ随所での“淡い光の輝き”が幻想的な美しさを放つ。夜に儚く煌めくオーロラめいた世界観、とても好き。壁画を思わせる紋様などの表現も神秘性を殊更に引き立てている。

“民間伝承”と“家族の再生”を結びつけたストーリーも素朴な温もりに溢れていて、序盤では母親の喪失をきっかけに冷え切っていた家族の姿が感情豊かに描かれている。デフォルメ的な絵柄ながらも、諸々の所作や表情で心の機敏をしっかり描写しているのが良い。そこから兄と妹の冒険へと移行していき、次第に妖精や魔法の世界へと突き進んでいく様がまさしく御伽噺のような質感に溢れている。“悲しみに明け暮れた末に心を閉ざしたお父さん”と“家族想いだけど押し付けがましいお婆ちゃん”が顕著だけど、神話と家族をスムーズにリンクさせているので冒険の結果がそのまま家族の救済へと結び付くのが清々しい。明るく暖かなムードで描かれるラストの解放感も愛おしい。

お母さんから子供達に継承される歌や妖精の爺さんによる言及が示すように、「物語が語り継がれていくこと」への想いが綴られているのが印象深い。現地の神話や民話への愛情も勿論含まれているんだろうけど、この映画がジブリからの継承であることを考えるとアニメーション作品に対する確かな想いが伺えて興味深い。
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