開明獣

ロング・トレイル!の開明獣のレビュー・感想・評価

ロング・トレイル!(2015年製作の映画)
4.0
自然科学系の啓蒙書や文化的差異に関する軽妙洒脱なエッセイで、いくつものベストセラーをものにしたかつての人気作家、ビル・ブライソン(実在の作家。本作の原作者)も今では落ちぶれて、もう5年弱も新作を出せないでいる。妻に引退をほのめかされるも、何かに突き動かされてブライソンは、アパラチア山脈の遊歩道、3,500kmを踏破しようと思い立つ。

日本の南北の長さが約2,800kmだから、その1.25倍で、歩くのは山道である。1日約16kmを目標としても、7.5ヶ月もかかる、70を超えた身には、およそ正気の沙汰とは思えない大冒険だ。途中、志し半ばで行き倒れた人間も多く、熊も出るという、大自然への挑戦と言えば聞こえがいいが、いわゆる年寄りの冷や水だ。

そのブライソンを突き動かした"何か"は、人生終盤にかかっての最後の意地なのか、果てなき好奇心の現れなのか、両者のミックスなのかは分からねど、妻に猛反対されながらもブライソンは同行者を求めて、旧友に片端から連絡する。

齢70歳を越して、旧友たちからは、無謀な試みと一蹴されて誰も首を縦にふるものがいなかった中、唯一声をかけなかったカッツから連絡がある。カッツは、ブライソンが同伴者を探していることを、友人からの聞き伝えで連絡してきたのだった。自分が行きたい、と。

カッツは、前科持ちのアルコール依存症で、ブライソンがもっとも一緒に行きたくない人間であったが、背に腹は変えられない。デコボココンビの無謀な挑戦が始まる。

「ゲド戦記」や「闇の左手」等、優れた作品を残してくれたアメリカの作家、故アースラ・ル=グインは晩年のエッセイでこんなことを言っていた。

「歳をとっても頑張れだって?大きなお世話よ!お風呂に入るのだって、滑って転ばないか神経使って慎重にしている人間が頑張れるわけないじゃないの!」

ご尤もでありんす😓私も昔、祖母や、今は両親に、「身体が動かないとか愚痴ばっかり言ってないで、もっと前向きに生きなよ!」と無神経な発言をしていたものだ。海より深く反省だね。

開明獣も老人1.5歩手前くらいで、身体能力は衰え、記憶力は減退し、かつてのような無理も効かなくなってきた。これは自然の摂理というもの。なのにこんな大冒険を目論んでしまうなんて、尊敬しちゃうよ。だから、どうか若い方たちには、この作品を寛大な目で見てあげて欲しいな(笑)

美しい大自然を愛でながら、ズッコケコンビの北米版奥の細道(?)を楽しむ作品です。かつてはコワモテ役の多かった、ニック・ノルティとダンディ・ジェントルマンのロバート・レッドフォードの共演も興趣ありです。

ブルーグラス調のアコースティックな音楽もまた味があっていいんだよねえ♪
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