荻昌弘の映画評論

獄門島の荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

獄門島(1949年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 横溝正史原作の本格派探偵小説をまっとうに映画化した作品。
 瀬戸内海の封建的な獄門島で、名門の家族が探偵の目の前で次々と殺されて行く……というと「グリイン家の殺人」じみるが、悪い出来ではないにせよむろんあれほどスパリとは行かなかった。
 被害者が狂女や神経衰弱気味の偏執狂ばかりであるのも生理的にグルウミイな感じだが、何よりも一応探偵小説的な表情をとりながら、その実描写の質は案外に「科学的」でない点が全体をまとまりのないぬれたものにしてしまったのである。
 演出のテムポはまるで小説を対角線読みしているように早いが、人物や事件の組合せが原作に忠実になろうとしたためか充分消化しきれず、乱雑きわまる感じになりっ放しである。脚本のラストは原作をもう一度ひっくり返すというサアビス振りだが、折角のその巧妙なトリックも映画的に整然とした理詰めの結果でないので案外効かなかった。
 金田一耕助探偵がメタフィジクな御託宣で警官達を煙に巻き、巻かれた連中が金魚の糞みたいに先生の後をゾロゾロついてまわるというだけでは少しチエがなさすぎるのである。
 ロケは特に前篇で見事な効果を示し、内海の小鳥を立体的に把えることに成功したが、一般島民がこの名門の事件に対して何の反応も見せないのはフィクションとしても片手落であり、この作品が科学的な構想を欠いている一つのデータを示している。
『映画評論 7(2)』