リアリズム絵画の巨匠アントニオ•ロペスのドキュメンタリーでありながら同じく寡作のビクトルエリセの人生を準えた叙事詩。
ロペスの製作方法が他のリアリズム作家と著しく異なっているのは、写真から対象を描きだすのではなく変化する媒体を同じ位置同じ角度から描くことに偏執的なまでに固執する姿勢であり、これによりマルメロの木が諦観され超越的なリアリズムに置換されていく。
まさにエリセの芸術表現と非常に似通ったアプローチであり、変化する対象を捉えたドキュメンタリー作品が作られる過程でもある、ラストは死と再生のマルメロの木を撮るカメラと画面越しに明滅する映像を観る人々が映し出され作品は完成する事なく終わる。
通奏低音して語られる多層的な構造を内包した作品であり、「瞳を閉じて」に繋がっていく過程を撮ったような作品。
非常に多作で晩年は疲れ果て才能が枯渇したミケランジェロの最後の審判を批評する寡作なロペスとそれを撮る寡作なエリセの視点も印象的だった。