垂直落下式サミング

イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
諸外国では、ストーリーのあまりの非道さに上映中止に追い込まれたりしたそうだが、日本は昔から残酷描写に対しては甘く、この映画も成人指定映画として公開されていた。
本作は、1974年にドン・エドモンズが監督したカナダ映画だ。ナチ女収容所を題材にした映画は、サディスティクな容姿で周囲にフェロモンを振り撒く女看守が必ず登場するが、そのイメージのもとになっているのが、この映画の主人公イルザ・コッホである。
女性の方が男性に比べて苦痛に耐性があるという理論を証明すべく、捕虜の女性たちを凄まじい耐苦痛実験にかける悪魔の女所長だ。
また、異常性愛を求めるイルザは夜な夜な男性囚人を呼びセックスを強要する。捕虜らしからぬ役得に思えるが、彼女を満足させられなかった男は、問答無用で陰茎を切り取られ去勢されてしまうのだ。
彼女を演じるのは、マニアに人気の巨乳美熟女ダイアン・ソーン。ナチスドイツものであるにも関わらず、政治的なイデオロギーはかけらも持たず、ひたすら拷問とセックスを求める残忍でエロティックな女支配者として、抜群の肉体感を示している。
彼女の収容所では、医療研究と言う名目のもと、囚人に対しておぞましい人体実験を繰り返す毎日。その内容はあまりにむごたらしく、梅毒を顔に植え付けたり、熱湯に何分耐えられるか実験したり、高圧にどのくらい耐えられるか試したり、膣内に電流を流したり、眼球をくりぬいたりと、人間が思い付く限りの非人道的イマジネーションを詰め込んでいる。
こういった作品は、よく「低俗」だ「俗悪」だと、批判にさらされるジャンルであるし、もちろん社会を生きる上で道徳というものが大切だということは否定しない。パチンコに全財産呑まれたからといって、となり席にいるおじいさんを殴り殺して年金を強奪してはいけないし、普段から性欲をもて余しているからといって、道行く若いお嬢さんを闇雲に強姦して孕ませてはいけない。これは、大半の人が納得する。
しかし、必ずしも創作で道徳を語る必要は無い。 この『イルザ』には「道徳」や「教訓」まして「文学性」なんてものは、かけらも存在しない。あるのはただ「刺激」だけだ。
すべての映画がこれになっても困るが、このような作品を徹底的に糾弾して、不健全だと見なしたらいちいちお説教をして、持たず、作らず、持ち込ませずとし、社会を健全に保ってやろうなんて、それこそ傲慢な考え方だろう。
当時の大ヒット、そして後のカルト作品化が、本作がこの世になくてはならない作品であることを証明している。