曇天

スター・ウォーズ/最後のジェダイの曇天のレビュー・感想・評価

4.5
スター・ウォーズの換骨奪胎。SWとはどんな話なのかを今一度考え直そうという志向を感じた。

『フォースの覚醒』ではスターウォーズという映画が観客に向かって真正面からサービスを提供していたのだが、本作『最後のジェダイ』では一歩引いて、スターウォーズのことを客観視していた感じ。死の商人に言及してスターウォーズ的な善悪二元論を皮肉ったり、戦争の英雄に憧れる反乱者がいたり、闘争本能むき出しのパイロットが苛立ち、ジェダイがフォースを冗談めかしたりする。カイロ・レンの台詞でも全てのスターウォーズ的しがらみから解き放たれようというようなことを言わせている。これは監督で脚本のライアン・ジョンソンの思想が色濃いんだろうな。SW続編を作るっていうプレッシャーの中で新しさを出すための一つの手法ではあるけど、ルーカスの手を離れた後の3作の中でもひときわ独立心が強く独創的。これがとにかく若い俳優陣に似合っていて眩しい。

新3部作のコンセプト、世代交代に関して。確かに主役級に新人を多く使うことで、そもそもSWが持っていたフレッシュ感も醸成できてる。でもマーク・ハミルやキャリー・フィッシャーを見てみると、旧作側だからといって超人気俳優というわけではない。むしろSWのせいで落ち目になった俳優たちを掬い取っているように見える。思うにこれは、スターウォーズからのある種の恩返しのような企画だったんじゃないか。『フォースの覚醒』から地続きなので確かに旧SWファンサービスと感じる要素は多め。だがそれもこれも全て「俳優マーク・ハミルを立てるため」なのでノイズにならない。映画として、というか人として正しい姿勢。

そして改めて戦争映画だったということを思い出す。現代の映画を取り巻くリアリズムにいよいよ順応してきた感じ。お馴染みギャグシーンもあるにはあるがどこかドライで、希望もあるがか細い。反乱軍は文字通りの崖っぷち、ファーストオーダーも基盤が緩く、非情で容赦ない。スターウォーズの過去6作の世界にありがちな長期政権の安定感が微塵もない。こういったところでもスターウォーズの考え直しが図られていて、「長い歴史の中の一部分を切り取る」という醍醐味が押し出されてる。歴史の中のとある出来事をクローズアップして観ているかのような劇的瞬間がいくつもある。
本来家族の話ではあるが、今回血縁による因縁はあまり関係してこず、世代間でどんどん断絶が起こる。若い世代が旧世代に不満をぶちまける。『最後のジェダイ』が恐いのは、カイロ・レンのような常識がなく気性の荒い、ルサンチマンを抱えた若者は現代社会でも押さえつけることが困難であること。死ぬ気になればしがらみを捨てて何でもやってしまえる。犯罪者として牢屋に入れるまで未然に防ぎきることが出来ていない。現に今の戦争相手はイスラム国のような、テロリズムに感化されストレスに突き動かされている若者たちだ。かなり現代的、しかも都会に住んでいるような触発されやすい若者が親玉の戦争映画といえる。
そのレンとレイの交流が象徴的に描かれる。こちらもルークという過去のレジェンド(威光)を頼ってきたけど、ネットで真実を知るや否や鞍替えするわかりやすい現代っ子。親世代に見放されて自分を孤独と思っている男女二人が身を寄せ合う様が悲しい。

現状最高傑作。どうやったらこんな予想できない洗練された脚本にできるのか。やっぱディズニーに直されまくってるのかな。まだまだ語りきれないと言わんばかりに新キャラが続々出てきてポテンシャルに驚く。一方3作目のハードルが上がりまくってる、どうまとめるのやら。そしてレイアまでいなくなってしまうなんて…やっぱり寂しい。
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